第23話
「なんだってんだよ」
「なんでも、魔王に直接お伝えしたいことがあるとのことで。敵意が見られなかったので、離れに待たせております」
起こしてきたのは、シェイルのテレパシーだった。
なんでも、一匹の上級魔物が魔王にお話があると言い、代わりにシェイルが聞こうとしても、一切その内容を伝えようとしなかったようだ。重大な話なのだろうとみなし、離れにある棟に待たせ、テレパシーを送ってきたとのことだった。
シェイルが他の魔物を通すというのも珍しく、いい話か悪い話か。いったいどんな話なのか、いろいろ考えながらも、その棟へと足を運んだ。
国王のところのように立派とは言えないが、この城の敷地内には、いろいろな所に会議室を設けている。特別使うことはないが、警備の魔物たちが相談したり、会議を行ったりする際に使用しているとのことだった。
連れられるままたどりついた先は、門の近くにある棟の2階に位置する会議室だった。
謎な緊張感が胸を走る中、シェイルは何も気にせず扉をあけた。先に中に入ったのはシェイルだった。後ろから護衛という名目でヴィンスが立っていたが、かなり警戒をしている様子だった。
そんなに危険な男ならば、中に入れなければいいのにと思いながら、シェイルの後ろから男の姿を見つけた。
(こいつ…)
目の前にいるのは、サラサラな短い髪に、前髪を後ろに持っていくようにし、頭の上で2~3個の黒ピンで止めていた。年齢は、シェイルよりも下くらい。身長はシェイルよりもありそうだが、顔つきが少し幼めだった。オレンジ色のその髪に、瞳は赤色と、滅多に見かけない色合いだった。
しかし、この雰囲気を俺は知っている。この気配は…。
テーブル越しにある椅子に座れるようにセッティングはされているものの、まず先に要件を聞くため立ったまま見つめた。
すると、その男も立ち上がり、俺の5歩くらい前ににしゃがみ、右膝を立て、膝上に左手首を乗せ、首を下す。よくシェイルやヴィンスがやる体勢だ。
「魔王様。お会いできて光栄です」
「要件は?」
「はい。わたくしキーツ。勇者との接触に成功しました。よって、今後の勇者の行動を、逐一報告させていただきたいと思います。勝手な行動かとは思いますが、魔王様のお役に立てたらと思い、参上いたしました」
「本当勝手だな。しかし、それもまたおもしろい」
キーツ。やはりそうだったか。
この姿が魔物としての姿なのだろう。目立つ特徴を消し去り、見た目の印象を変えることで、魔物からばれないようにしていたのだろう。
シェイルの様子からして、何かを命令したわけでもなさそうだ。
しかし、これでキーツが来るたび、こちらに精神を動かさなければならないということだ。少々手間となるが、こちらとの内通者がいるという現実も楽しそうだ。実際、それを何かの役に立てればいいものだ。
「ありがとうございます」
「しかし、始末はするな。あれは俺がやる。そうだな。いい方向に進みそうだったら、何か褒美をやらないとな。何がいい」
「恐れ入ります。私の目的は魔王の座」
「…ほぉ」
一瞬その言葉にシェイルが反応し、戦闘態勢に入ってしまったが、腕を前にやって制止させる。
止めるなと言わんばかりにこちらを睨まれたが、あえて気付かないふりでキーツのほうを、楽しそうな表情で見つめ続ける。
「しかし、それは勇者とのすべての決着が着き次第。魔王様とお手合わせ願いたいのです」
「もしお主…キーツが勝てば魔王の座と」
「はい」
「まぁ、我を殺せたらな別にかまいはせぬ。しかし、その場合はこちらも、本気で行かさせていただくが?」
「ありがたきお言葉恐縮です」
コピーをシェイルに任せた後、すぐに本体のほうに精神を戻した。
今回はアマシュリに何も言わずに精神を転送させてしまったから、怒っているかと思ったが、特別気付いた様子もなく眠っていた。
キーツもまだ戻っていないようで、シーンとした空気の中、ただひとり身を起こす。
月光が部屋に入り込み、ルーフォンやユンヒュの姿が目に入る。すぐ隣で寝ているアマシュリまでも、既にルーフォンに警戒することなく眠りに入ってしまっている。
最初のころは、ルーフォンに警戒する様子を見せていたアマシュリだが、今はもうだいぶん慣れてきたようだ。しかし、慣れてきたころにユンヒュと出会ってしまい、次はユンヒュを警戒する。しかし、ルーフォンはルーフォンで、ユンヒュよりキーツを気にしている節が、ところどころ見られた。
やはり魔物だからだろうか。しかし、今回はアマシュリのように警戒しなくていい相手。というわけにもいかない。そうルーフォンに伝えたいのは山々だが、今は言うことができない。なぜならキーツと魔王が手を組んでいるのは、シェイルとヴィンスしか知らないから。アマシュリにも言っていない。
しかしそれは言うべきだろ。アマシュリがキーツを警戒していてほしいから。
(あ、やばい。忘れてた)
コピーに精神をゆだねていた際に、一つだけ忘れていたことがあった。
むやみにしゃべりすぎたことだ。
声を変えることなく話してしまったせいで、声がばれなければいいのだが。
アマシュリがではなく、俺がキーツに細心の注意を払って、警戒し続けなければならなくなった。
(でも、俺を殺す…か。魔王の座を手に入れてどうするつもりなんだか)