冴えない彼への注ぎかた。
興味を持って下さり、誠にありがとうございます。
架空の楽器と架空の音楽ですので、なんとなくで読んでいただければな、と。
楽しんでいただければ幸いです。
三月七日。その日はわたしの四十三の誕生日だ。
そして、二十年ほど続いたわたしたちの結婚生活が終わりを告げた日でもある。
わたし――アウラ・ニャタリカは、祝いの席以外だと視界に入れようとすらしないエールを片手に持ち、小麦色のそれを不器用に杯の中で転がしながら人生を振り返っていた。
(二十二年と少し、か……)
目の前のテーブルには離婚届が一枚、ぽつんとある。
ランプだけがわずかに灯るリビングにはもう、そこに記された彼の姿はない。
(もっと違う生き方があったのかしら)
ふとそんなことを揺蕩う意識の中で思う。思ってしまう。
この広いだけの我が家は、どうやら今日わたしだけの物になったらしい。
ずいぶんと前から手続きを済ませていたのだろう。買ったのは、ほとんど彼なのに。
離婚の原因は彼――わたしの元夫、エドガーの浮気ではある。
けれど夫婦仲自体は何年も前からとっくに冷え切っていた。
だから悲しいという気持ちよりも、やり直せないんだなという納得の方が大きかった。
強がりに聞こえるかもしれないけど、わたしも浮気をしようと思えばできたと思う。
できなかったのは、たぶん。まだ心のどこかで期待していたのだ。
青春の真っ只中。何でもできる気がしたようなあの頃の、優しい彼の面影を。
わたしとエドガーとの間には幸か不幸か、子供はいない。
今となってはできなくてよかったとも思える。わたしたちの間に生まれても、きっとそこには寂しい思いや悲しい思い出ばかりをあげることになっただろうから。
わたしはふと、ふらつく足でソファーから立ち上がり、隣の部屋へと向かう。
そこは防音・防刃などが施され、大型壁鏡のあるよく使いこまれた奏楽室だ。
奏楽。ありていに言えば奏剣と呼ばれる剣状楽器を用いた演舞である。
つい昨日まであったはずのエドガーの〝ジェパードカレア〟と〝ハウウェナ〟は、もうここにはない。まぁ、彼の商売道具なのだからそんなのは当然のことだ。
わたしは……いや、わたしたちは奏楽家だった。それもれっきとしたプロの。
部屋にぽつんと置き去りにされた安物の〝アーゼクス〟と〝レミアリュール〟を手に取り、初心者未満のなっていない姿勢で二刀を構える。
「――――っっ」
その瞬間。両肩から鋭い痛みが全身を駆け巡った。
(情けない……もうまともに構えられやしない)
奏楽家に限った話ではないけれど、わたしたちにとってもっとも恐れるべきは老化だった。
動きのキレ、容姿の劣化。後者は特にそうだ。
若い頃に得た人気の貯金は、三十後半に差し掛かった辺りから如実に顔を覗かせる。
わたしの場合は両肩の腱鞘炎だった。
以前は国内でも有名な奏響楽団に籍を置いていたが、それも結局は〝エドガーの双だから〟という事実が理由の大部分を占めていたのではないかと思う。
三十を過ぎた頃からだろうか。年齢を理由にレギュラーではなくなって、気が付けば代役の代役の代役程度の扱いになっていた。やがて腱鞘炎の悪化を契機に退団し、今に至る。
華やかさとは無縁の、普通の専業主婦。それがわたしの今の現実だった。
片やエドガーは、中学の頃からいつも皆の中心にいて、それはずっと変わっていない。
顔も良くて、当時は横柄さの欠片もなくて、容姿に恵まれていた。
そんな彼がわたしは最初、嫌いだった。わたしとは真逆だったから。自惚れに聞こえるかもしれないけど、通っていたジュニアの中ではわたしもそれなりに上手い方だった。
だからコンクールなどではいつも彼とデュオを組まされ、最悪だと思っていた……はずが、何度か舞台を共にするうちに感性というか、波長というか。
とにかく奏楽をしている間の彼だけは、わたしも認めるようになってしまった。
……なのにふと気が付けば、わたしは普段の彼にも好意を持つようになっていたのである。
我ながら免疫のない女だったなぁ、と少し笑ってしまう。確かにあった青春だ。
高校になると、要求される演奏と演舞のレベルも格段に上がった。
そして、この頃。わたしは自分が〝天才〟ではないのだと思い知った。
昔はよかった……なんて過去へすがるだけの、普通よりは少し上手くやれるだけの凡人。
対するエドガーは紛れもない〝天才〟で、わたしは彼を引き立てる影。
別に不満はなかった。いや……荒んでた時期がないわけではなかったけれど、彼が励ましてくれたから立ち直れた……ううん。立ち直れたような気になれた。
だが、プロになって彼も自分が〝それなりの天才のひとり〟だと知ってしまったのだろう。
一番傍に居たわたしだからこそ、どんどん余裕がなくなっていくのが悲しいほど分かった。
きっとそんな、お互いに苦しかった時期に。まるで気分転換の一環のような結婚をしたのがよくなかったと、今では思う。
これが彼の浮気に繋がった……いや、十年近く黙っていられたその逢瀬を果たして浮ついた気持ち、と呼ぶべきかは正直よく分からない。
とにかくわたしとエドガーの間にあった確かな繋がりは、もう残ってはいなかった。
「あっ……」
何気なく振るった奏剣が震える指先から離れ、〝レミアリュール〟が中空を舞う。
とっさにそれを拾おうとし、しかし泥酔していたこともあって重心のコントロールに失敗。
わたしは、たまたま上向きとなった刃に向かって倒れることしかできなかった。
(あぁ、わたしの人生。こんな終わりかぁ……)
瞬きほどの後。錆びついた刃がたった一度、空っぽな胸を深く突き刺す。
熱いものも零れ落ちたけれど、やがてそれも温かさを急速に失っていく。
――鏡に映るしわくちゃな泣き顔。
それが……〝今〟のわたしが見た最期の光景となった。
*
目が覚めるとわたしは、二本の奏剣を携えながら校門の前に立っていた。
「…………は?」
視線の先にあるものに、わたしは疑問するしかない。
あの二対の奏剣を掲げている男女の紋章。あれを忘れられるはずがないのだ。
聖アルトリウス学園。ここは青春の苦楽が詰まった、大好きな母校そのものだった。
「アウラ、おはよっ」
「きゃっ」
背後から誰かに飛びつかれ、すごい可愛い子ぶった声が出てしまう。
「あり? 珍しい、避けられなかった。それに〝きゃ〟って」
「と、とにかく重いから降りて……ヒスナ」
そうだ、ヒスナだ。ジュニア時代からの同級生のヒスナ・ジャジナルだ。
この声にはよく覚えがある。あの子は部で打ち解ける前からわたしにしつこく付きまとってきていて、気が付いたら一緒にいることが多くなっていたと思う。
(けれど、彼女は今……海外にいるはず)
振り返ると、そこにはとても四十代には見えない彼女がいた。
なんなら学生服まで着ている。中々にチャレンジャーだと言わざるを得ない。
それはそれとしてあまりの眩しさにわたしは、思わず顔の前に両手でバツを作った。
「わ、若い……」
「若いて。なに入学早々、おばさんにでもなった? 避けないからこっちがびっくりしたし」
「にゅ、入学早々?」
「んっ!」
わたしがそう言うと、ヒスナが視線を下げるよう促してくる。
「えっ」
するとなんと、わたしも懐かしき聖アルトリウス学園の制服を着ていた。
驚きのあまり、周囲の視線も気にせず顔だけでなく全身に触れる。
そして、知った。とっくに失ったはずの肌ツヤやハリも全て、あの頃のままだと。
何よりよく肩が動くし、持っている奏剣の鞘は確かに古いデザインのものだ。
(なにこれ……い、一体なにがどうなっているの)
「えー? もしかしてそーいうキャラでいくの? 止めた方が良いよーぅ? アウラはもっと高飛車で傲慢で我儘で意地悪で、奏楽にだけは誠実なキャラでいなきゃ」
「わたしは、そんな人間じゃないわ」
――少なくとも、今はもう。
「ふぅん? 変なの。まぁ、いいや。遅刻しちゃうよ、早く行こ」
「え、えぇ。そう、ね……」
死後の夢。あるいは長い長い走馬灯の一種なのだろうか。
そんなことを思いながらわたしは、少しだけ軽い足取りでヒスナの後を追いかけていた。
*
(案外、覚えているものね)
前後のクラスメイトから座席を割り出すことから始まり、大人になってからあんまり使っていなかったかつて学んだ多くの知識が、まだ残っていたことにわたし自身驚いた。
(まぁ、最初はジュニアの復習がほとんどだからかもしれないけれど)
ともあれ、その余裕はわたしに考えごとをする時間を与えてくれた。
つまり、今わたしの身に一体なにが起こっているのかについてだ。
(……と言っても記憶はそのままで、時間だけが戻った以外にないわよね)
声も匂いも景色も何もかもがあまりに現実味を帯び過ぎている。
それに状況がどうであれ、わたしに何か不都合があるわけでもない。なら、
(違う人生を歩む、か……)
今のわたしにはよほど現実的な選択肢の一つだと思う。
奏楽に打ち込んでいけば超えられない壁にぶつかるのは見えているし、何よりその過程でまた両肩が壊れてしまう。それはすでに過ぎ去った未来だ。
若者には数多くの未来が用意されている。
けれど、上手くいかないことを知っていてそれでも前へ進める人間は多くないだろう。
(決めた。奏楽部に入るのは、やめよう)
新入生の過半数が奏楽ために聖アルトリウス学園を選んだ、と。
そう言っても過言ではない環境下で、そちらを選ぶ意味もわたしはもう知っている。
忘れもしない。奏劇を見て喜んでくれる学友の中、恨めしそうに見つめるあの眼差しを、わたしは二十年以上も前に身をもって経験しているのだ。
やがて初日の授業が終わり、窓際の席からヒスナがわたしのもとへすっ飛んでくる。
「ア~ウラっ、早く行こ行こっ! 申請行かなきゃ、入部テストの」
どこの、とはあえて言ってはこない。それもそうか。
以前も同じやり取りをしたとは思う。けどなんと答えたか、わたしは覚えていない。
「ごめん。わたし、奏楽部には入らないことにしたから」
さらりとそう口にすると、教室中にざわめきが駆け巡り――
「えっ、ニャタリカさん。入部テスト受けないの!?」
「なんでどうしてっ!?」
「ニャタリカさん、あんなに上手なのに!」
「どこか身体が悪いのっ?」
次の瞬間にはジュニアのコンクールなどで見知ったような顔ぶれや、同じ学校から進学してきた級友たちが、こぞってわたしの席へと集まって来ていた。
あまり話したことない子も、卒業まで親しくならなかった子もそこにはいた。
「大した理由じゃないの。でも奏楽はもうおしまいでいいかなって」
クラスメイトたちは、見たこともないほど穏やかなわたしの物言いにさぞ混乱していることだろう。でもこれでいい。わたしは今日から奏楽とは関係ない道を行くんだ。
わたしの言葉に誰もがひとまず理解を得た、その時だった。
ただ一人。ヒスナだけが今にも刺し殺してきそうな視線でわたしを見ていた。
「……アウラ、雰囲気変わったよね。今朝から」
「えっ?」
顔を見れば分かる。彼女は微笑んでこそいたが、激しい怒りの中にいるのだと。
「あなたって奏楽とエドガー君以外、ちっとも興味ないって感じだったのに」
「それは……」
その通りだと思う。一番にはなれないことを知ってから、周囲を見る努力はし始めたけれど基本的にかつてのわたしは、奏楽とエドガー以外はどうでもよかった。
「そんなあなただから、私は惹かれたのに。そんなへらへら笑いながら奏楽はもうおしまいでいいかな、って? なにそれ。ふざけんなよ、誰だよお前」
「……ごめん。ヒスナ」
「アウラ・ニャタリカが謝るなよッ!!」
叫び声をあげ、彼女は教室から去っていった。
あんなヒスナは初めて見た。そう、死ぬまでに一度も見せたことがなかった顔なのだ。
(きっとわたしが折れたのが、腱鞘炎の後だったからなのかな……)
「なにあの子」
「やるやらないは本人の自由でしょ」
「ね。こう言っちゃなんだけど、わたしなんかは入部できる確率上がるし……」
「あまり言わないであげて。ヒスナは奏楽に真剣なだけだから」
「まぁ、ニャタリカさん自身がそう言うならわたしたちは別に……ねぇ?」
やや気まずい空気が流れ、それを断ち切るようにわたしは「それじゃあ」と席を立つ。
これがきっと最善だと思うから、誰に何を言われようとも関係ない。
(けれど、家族にはなんて説明しよう)
まず納得しないだろうし、心配させてしまう。
落選したことにしてもいいけど、いつかバレそうな嘘をつくのは余計に面倒だ。
(考えてみればわたし、他になにも持ってないのよね)
やれることはきっとたくさんあって、でも今のところ特にやりたいことはない。
他のことをしている自分も想像できないな、と。そんなことをつらつらと考えながら、わたしはつい懐かしくて隅々まで見て回った。学園内は一周するだけで数十分かかるほどだ。
(わたし、本当に戻ったんだ……)
目につく全ての風景が懐かしさを与えてくれていた。
何でもないことが楽しい、というのはまさにこのことだと思える。
「……あら?」
学園の端の端。他よりも少し背の高い巨木があるところ。
色とりどりの草花の茂みに囲われたその場所には、密会に適した程々の空間がある。
かすかに聴こえてくる音色は確かに、奏剣によるものだった。
(ここを練習場所にしてる先輩なんていたかしら)
まったく覚えがない。わたしは音を立てず、中の様子を確認してみることにした。
するとそこにはひとりの男子生徒がいた。
表情は前髪で隠れていてよく分からないけれど、〝舞〟の所作は一つひとつがとても丁寧なもので、仮にもプロだったわたしから見ても素直に賞賛できるレベルに達している。
曲は聴いたことがないものだったから、恐らくは即興か自作だろう。
少なくとも当時のわたし以上の技量を持っているのは間違いない。
(うん、上手。でも顔がよく見えないのがなぁ……)
技術だけで評価してくれるほど、奏劇を見に来てくれるお客さんは単純ではない。
感情豊かではない奏者は、プロ並みの技術を持ったアマチュアにしかなれないのだ。
(というか、あんな子。部にいた記憶がないし、入部すらできなか――――……)
その時。少しだけ強い風が吹いた。
拭いた風は前髪を靡かせ、奥に隠れ潜んでいた心からの微笑を露わにさせる。
彼の表情は完璧だった。完璧とは、見た者もつられて笑顔になってしまう。そういう表現のことで、つまり。茂みを飛び出したわたしは、気付けば彼の両手を掴んでいた。
「どうしてそれだけのことができたのに埋もれてしまったのっ!?」
「え、あ……ニャ、ニャタリカ……さん」
すると彼は明らかに動揺し、驚いた様子でこちらに目を向ける。
「わたしを知っているの?」
「うぇ、あ……そ、のえぇっと……あっ、そ、奏楽をやっていて。ど、同年代で知らないひとは……たぶん、いません」
同年代ということは、同じ新入生だったらしい。なんてことだ!
わたしが奏楽をやめるのは別にいい。
けれど、彼がプロにならないなんて。日の目を見ないなんて間違っている!
プロとしてやってきたわたしだからこそ言える。それは絶対に業界の損失だ。
「あなた、名前はっ?」
「リ、リィ……カーシャ、です」
「もっとはっきりっ!」
「ひぃ! リ、リィン・ロウ、カーシャ……ですっ」
「リィンね。あなた、奏楽部に入りなさい、いいえ入るべきよっ!」
名前を聞いてさらに確信した。そんな名前の人物は一度も聞いたことがない、と。
過ぎ去った未来で彼が何をしていたかなんて知らない。
今、わたしがやろうとしているのはひとりの人間の人生を変えることなのも分かる。
彼が将来、出会っていた家族や生まれていた子供が存在しなかったことになるかもしれないのも分かっている。すぐに思いつくようなことは大抵、理解している。
(……それでも、と。そう思ってしまうわたしはまだ、奏楽家なんだ)
わたしは荷物も全部拾い集めて、彼の手を引いて歩き出した。
「ぼ、僕はっ。ど、どこに連れて行かれるんですかっ」
「奏楽部のとこ」
「え。あ、あの……実は僕、この後用事が……」
「後にして」
「で、でもぉ……」
「でももだってもないから」
有無を言わさず、わたしは通いなれた奏楽用のホールを目指す。
まぁ、一言で言えば特殊な体育館のようなものだ。
ホール前に着くと、そこではやはり入部希望の新入生でごった返していた。
わたしは人の群れをかきわけながら受付をやっている彼女――キュキュ先輩の元に真っ直ぐ向かい、用件だけを端的に伝える。
「わたしの分はいりませんから、彼の分だけお願います」
「わあ。強引だなぁ、きみは。まぁ、いいケド。は~い、じゃあここに記入よろしくね~」
「記入よろしく」
「ぼ、僕……ひ、人前で舞うのは、ちょ、ちょっと……」
「記入よろしく」
「は、はぃ……」
力なく返事をしたリィンはやむなしといった顔で用紙にペンを走らせていく。
ここまで連れてきておいてなんだけども、意志が弱すぎる。
もう少し抵抗した方が思う、男の子なんだし。まぁ、意地でも連れてくけど。
「お、終わりました……」
「はいは~い、受付完了で~す。選曲は三分以内で各自自由。二日後……週明けのこの時間にテストをやるのでぇ、そのつもりでまた来てくださいね~」
「う、ぅ……や、やりたくない」
「ここまで来て、自分で書いたのに文句言わない!」
びしっ、と。わたしはリィンの背中を叩いた。
ちょうどその時だった。人混みを割って背後から「おい」と低い声がかかる。
その声の主が誰かも、どういう感情を向けれているのかすぐに分かった。
だってわたしは、彼の乳首がとんでもなく弱いことまで知ってるんだもの。当たり前だ。
「……こんにちは、エドガー」
振り返るとそこには若かりし頃の、まだそういう関係になる前の彼が立っていた。
「部活やらないってどういうことだよ、どうなるんだ俺とのデュオは」
「解消、ということになるでしょうね。いい機会でしょ」
「ざけんなッ、お前卒業するとき言っただろうが! 俺とお前でアルトリウスの双極星を取るんだって! それを…………ッ!」
「えぇ……言ったかもね」
忘れもしない。だってそれは遠い遠い昔、果たせなかった約束だから。
双極星。それは聖アルトリウス学園の奏楽部における、歴代で最もデュオに与えられる称号のことを指す。そう、歴代。だから選出される代より、されない代の方が圧倒的に多い。
わたしたちの世代も結局、双極星が出ることはなかった。
三年生、最後の夏。わたしはエドガーと一つ下の後輩が、国内でも最大規模のコンテストの一つである『ヒェールミロ・コンテスト』のデュオ部門で金賞に輝く様を観客席から見ていただけなのだから、期待するだけ無駄なのは当時から理解している。
「俺、お前とこの賞が獲りたかった」
「ごめん。ごめんなさい……ごめんね、エドガー……」
あの時ほど、悔しくて泣いた日はない。ただその悔しさがわたしをプロまで導いてくれたことも事実であり、そういう意味でも苦い青春だったなと今なら思える。
「かもねってお前……」
「ありゃ~、パートナーの取り合いかぁ~。モテる女は辛いねぇ~」
すると、キュキュ先輩がいきなりそんな的外れなことを言い出した。
(相変わらずこの人は……)
彼女はよく面白半分で適当なことを言うひとだった。たまにイラっとする時もあったけど、わたしより上手かったから何も言う気にならなかったのをよく覚えている。
そして、目を丸くしたエドガーがわたしの後ろにいたリィンに気が付いた。
「お前ぇか?」
「え……ぼ、僕?」
「上手いわよ」
「――――ッッ!」
わたしのその一言で、エドガーの目つきが完全に変わる。
この頃のエドガーに横柄さはない、と言ったが本人から聞いた話によると中学の時点でわたしのことが好きではあったらしい。さらに彼は〝分かりやすい展開〟を好む。つまり、
「お前と俺、どっちがこいつに相応しいか。白黒つけようじゃねぇか、今! ここでッ!」
こうなる。リィンにとってはとばっちりもいいところか。ごめんなさいね。
「い、いやっ、だから僕はっ……」
「問答無用! ほら、離れろ離れろ。ぶった斬られても知らねぇぞ」
エドガーがそう言うと、彼とわたしたちを囲むようにスペースが生まれていく。
リィンの顔はまさに顔面蒼白だった。まぁ、とりあえず諦めて欲しい。
「ふぅ……」
そうして鞘から二本の奏剣――わたしからすれば三十年近く古いモデルなのだけれど、未来と同じ〝ジェパードカレア〟と〝ハウウェナ〟を構えた途端。
エドガーは直前までの怒りからは想像もできない、ゆったりした深い音色を響かせていた。
(……ポンジャザネ)
奏で始めた曲は、ポンジャザネの双奏曲・第六番。
自身の容姿へ激しい劣等感を抱えていた彼の『遺書』ともされる悲恋を唄ったものだ。
エドガーが剥き出しにしていた怒りとは対極……とまではいかないにしても、性質の異なる感情であるのは誰にでも見ればわかることだろう。
だからこそ、エドガー・マフキアという男はあえてそれを選曲したのだ。
「お、ぉ……」
「あそこからここまで切り替わるのか。すげ……」
たかだか百人程度の聴衆で、彼が緊張することはあり得ない。鮮明で奥深い音色は切なさと同時に、慰めなど求めていない自己嫌悪の嘆きが次第に顔を覗かせていく。
(やっぱり、上手い……)
それは紛れもない事実だ。けれど、未来を知っているわたしは思ってしまう。
超ジュニア級と言っても結局、まだまだこの程度なのだと。
積み重ねた研鑽が違うのだから、比較するべきではないとは分かっている。
だとしてもプロの目から見れば、未熟な点がいくつも見られるレベルに過ぎない。
(将来有望ね……って、誰目線なんだか)
思わず内心、苦笑してしまう。なんというか、今のわたしは保護者目線に近い。
演舞に関してもそうだ。腕の振り、身体の軸のわずかなブレ、より大きく伸びやかな全身のしならせ方、剣先を使った観客の視線誘導。修正点を挙げ始めればキリがなかった。
(でも大丈夫。彼は……彼らは勝手に上手くなる。そう決まってるんだから)
やがて双奏曲は第一楽章の終盤へと差し掛かると、エドガー自身の解釈を加えたアレンジが奏でられる。最後まで舞うには二十分以上かかるため、合理的な判断だった。
息絶えるような旋律が空に融け、やや遅れて驚嘆混じりの拍手が鳴る。
「こ、こんなに上手いんだ」
「ああ……お、おれにはこんな演技力はねぇ……」
「参ったなぁ。わたし同じ奏剣つかってるんだけど、自信なくす」
「ほら、次はお前の番だ。魅せてみろよ」
エドガーの鋭く真っ直ぐな視線はリィンへと向けられていた。
「ぼ、僕は……その……」
「悪いとは思ってるけれど、やらないと収まらないわよ」
「ぅ……」
リィンが唇を軽く結ぶ。
それからややあって観念したのか、自棄になったのか、奏剣を取り出した。
(〝ザヴェーニナ〟と〝ソラン〟……二つとも悪い奏剣じゃないけれど当時でもあまり奏者が少なかった。確かどちらも六年もすれば作られることもなくなったはず)
単純な値段で言ってもエドガーの〝ジェパ―ドカレア〟がニ十万に対して、二つを足しても半分いくかどうか。観客から見れば、そういう意味でも〝差〟がある。
程なくして、どうにか呼吸を整えたらしいリィンが甲高い音を鳴らし始めた。
曲は同じくポンジャザネの双奏曲・第六番。
冴えない彼も勝負の基本というものを弁えているのは良かったと思う。けれど――
「……冗談でしょ」
「まじ、かよ……」
「「…………」」
リィンの演奏と演舞。そのどちらも見るに堪えないクォリティであった。
たとえるならそれは、初等部の体育における創作ダンスでの一幕だろう。
羞恥心から堂々としていないがゆえに、同じ振り付けでも全く別物に感じるというものだ。
(こ、ここまでダメだったかぁ……)
確かにこの有様では人前で舞うことなど考えもしないか。
しかし、この場にいるのは誰かに見てもらうために踊れる者たちだけ。
恥ずかしい、などという低次元の奏劇を見せられれば、ため息混じりに背を向け始めるのも無理のないことだった。気持ちはよく理解できる。けれど、だからこそ――
(惜しい……本当は、もっといい物を持っているのに。少なくとも一年の中では一番上手いと確信できる技術や感性を持っているのに……)
三分ほどだろうか。苦痛の時間が過ぎ去り、当然拍手の一つも鳴ることはなかった。
すると、見ていたひとりが嘲笑を浮かべて言った。
「あれが上手いって……ばかにしてんのか?」
「だよね。あんなんで全国常連の奏楽部に入部しようって……」
「…………っ」
リィンは俯いていた。
すると彼らに対していの一番に反論の声をあげたのは、他でもないエドガーだった。
「お前、あいつの目が腐ってるって言いたいのか?」
「えっ。い、いや……だってそうだろ。逆に聞くけど、上手いと思うのかよあれが」
「ど下手クソだよ。ぶっ殺したいくらいにな。だが、それがどうした。あいつがどれだけ下手だとしも、アウラが〝上手いと感じた瞬間がある〟ことまで否定するつもりはねぇんだよ」
体格差もあってか、彼らはエドガーの迫力に委縮してしまう。
気持ちは嬉しいが、それでは周囲の納得は得られないだろう。要は説得力の問題だ。
素人に才能の有無をとやかく言われたくないのと同じこと。仕方ない、か……。
「ごめん。ちょっとだけ貸して」
「ぁ……」
わたしは一歩前に出て、リィンから奏剣を拝借する。
やっぱり、年相応の痺れも鈍さもない。何より肩の腱鞘炎の痛みを全く感じない。
(体が……両手が思うように動く。今なら思った通りの動きができるはず)
未来のわたしは大した奏者ではなかった。それは充分、理解している。
でも奏楽に出会って三十年余り。プロとして十数年のキャリアは確かにあるのだ。
(ならその過程で培ってきた技術とこの若くて健全な肉体が合わされば、そこらの名の知れたハイスクール……いいえ、大学なんか目じゃない――と思いたい)
奏剣を構え、わたしは頭の中に浮かぶポンジャザネの双奏曲・第六番。
その楽譜を躊躇なく奏で始めた。何を隠そうこの曲はエドガーとわたしが学園時代、デュオとして最後に引いた曲だ。忘れられるはずもない。
過去を意識した訳ではないが、わたしの身体は当時の身を焦がすような苦しさを表すように情熱的だ。双奏曲である以上、これは男と女の曲。音を奏でるわたしは確かに女だった。
「うぉ……っ」
「ぇ、えろい……」
「……ほ、本当にあたしと同い年なの? 信じられない」
同い年じゃないよ。本当はそう言ってあげたかった。
けれどその言葉にはたぶん意味がない。きっと信じてはもらえないだろうから。
(さぁ。ここはゆったりと滑らかに……次のパートは荒波のように力強く)
そして、わたしは奏劇の中で役を切り替える。
「うわ、すごい。すぐにわかった……っ!」
「う、うんっ。今、女から男になったよねっ!?」
この曲をソロで奏でるとは、こういうことなのだ。
そしてわたしは、あえて先程のエドガーの演技を完全に模倣して舞ってみせる。
「「――――っ!」」
「なぁ、おいこれ……」
「……え、えぇ」
「エドガー君と同じ……」
そう、同じ抑揚。同じ感性。同じ奏剣捌き。
周りの生徒たちが受けた印象は正しかった――――ここまでは。
(こういうの、大人げないって言うのかしらね)
わたしはエドガーの演技で見つけた修正案をひたすらに突き付けていった。
その非情さはある意味、ポンジャザネの断末魔を思わせるほどだ。
(これで……フィニッシュよ!)
たった三分。されど三分。わたしはわたしが思う通りの奏劇が出来ていた。
肩で息をしていたわたしはどこへ行ってしまったのか。わたしは少し興奮気味だった。
(こんなに納得いく舞いも演奏も……本当に久し振り)
「……す、すげぇ。プロの講師みたいな感じがした」
「感じ、じゃないよ。まるっきり指導だったじゃない」
「マジかよ、あれが同年代……? 勘弁してくれよ……」
賞賛や驚きを含んだ拍手が、演奏の終わりからやや遅れて鳴り響く。
わたしという存在は彼・彼女らの中で確実に大きくなっていた。
こうなればもうわたしから何か言う必要はない。誰もがこう思うのだ。
あれほどの奏劇をする人間が「上手い」と言うのだから、あるいは彼も……と。
「どっ……どうだ、アウラはすごいんだよ。分かったか!」
衝撃は受けつつも、自分のことのように誇らしげなエドガーの姿が素直に嬉しい。
でもわたしは……わたしはもう、あなたとまたやっていける自信がないから。
だから……いくつになっても、今のあなたを否定しないあなたでいてね。
精神年齢相応に緩くなった涙腺をなんとか引き締めながら、わたしは平静を装う。
「――素晴らしいじゃない、新入生」
すると、囲いを堂々と割って入ってくる上級生の姿があった。
「フェリダさ……部長」
「あら。ご存知? 嬉しいわ、ありがとう」
彼女は朗らかに微笑み、わたしは少しだけ委縮してしまう。
フェリダ・クルスニク。聖アルトリウス学園至高のデュオを双極星と呼ぶのなら、彼女こそ数年後。一挙に世界的なトップスターへと躍り出るソロの独極星なのだから。
……ただ、わたしが委縮した理由はそれだけではなかった。
何を隠そう来年入学してくる彼女の妹が、未来でのエドガーの浮気相手なのである。
「うん。確かに君にも――少しだけ、期待しちゃうかも」
フェリダはリィンを見て、優しくそう告げる。
彼は彼女の美貌にほだされたのか、明らかに赤面してゆで上がっていた。
(は。なんでわたしの時より照れてんのよ!)
なんとなくそう主張したいわたしは、果たしてなんなのだろうか。
「でも貴方。今のままじゃ逆立ちしてもひとりでは舞えないのでしょう?」
「…………っ」
「だからこうしましょう。貴方と貴女、うちの入部テストをふたりで受けに来なさいな」
「「――――っ!?」」
「ま、待ってください。わたしは――」
と、わたしが続けようとしたその時だ。
「自分は上手いと思った男を強引に入部させようとしてるくせに。わたしは、何よ」
「ヒスナ……」
鋭い視線を向けてくる彼女は、心からの怒りに満ちている。
「私と勝負しろ、アウラ・ニャタリカ! そして負けたら……潔く奏楽を続けろっ!」
「あちぃな、ヒスナ。いいぜその勝負、俺も乗った!」
「あ、あの……ぼ、僕の意見を誰――……」
「ふふ。じゃあ、あなたたちもデュオをやってもらおうかな。来週が楽しみだわ」
こうして予想外にも、リィンに入部テストを受けさせるだけのつもりが困ったことになってしまった。でも少し……ほんの少しだけワクワクしている自分がいるのも事実だった。
「ぼ、僕は……や、やれない、のに……僕なんか……」
「やりたくないわけじゃないのね」
「あっ、いや。そ、そういうわけじゃ……ない、ですけど」
「まぁ、諦めも肝心よ。逆にこう考えなさい、後悔しないための挑戦だって」
「後悔、しないための……」
どんな事情があるのかは知らない。けれど、話していれば分かる。リィン・ロウカーシャは好きでもないことで、あれほどの笑みを浮かべられるような人間ではないのだと。
*
「いらっしゃい、ゆっくりしていってね」
「あっ。は、はい。お、お邪魔します」
翌日。わたしは特訓をするため、リィンを自宅まで引っ張って来ていた。
全く知らなかったのだが、彼はそこそこ近所に住んでいたらしい。
まぁ、それはさておき。実家には広い奏楽室があるので活用しない手はないだろう。
一応それなりに裕福ではあり、一方で彼の方はやや貧しい家庭のようだ。
もしも金銭的な問題でやれないのだとしたら申し訳ないなと思う。
「ニャ、ニャタリカさんの家……すごいね」
「まぁ、そうかもね。あとアウラでいいから」
昨日、久し振りに帰った時はさすがに懐かしい気持ちになった。
大学に行くまでの青春を過ごしたわたしの部屋は昔のままで、未来じゃ美魔女のママもまだ単なる美女だったし、パパの頭頂部もまだ賑わったしね。
そうして、わたしとリィン、あとついでにママは奏楽室に着く。
ママも元プロの奏楽家だからわざわざ追い出す必要もなかった。
「さて、と。まずちゃんと聞いておかないとよね」
「な、何を……?」
「決まってるでしょ。あがり症なの? それとも経験の問題?」
「し、しいて言えば……じ、自信……?」
申し訳なさそうに答える彼を茶化しはせず、わたしは小さく頷く。
「じゃあいつも一人で隠れてやってるってこと? 一回も誰にも見せたことがない?」
「そ、それは」
「違うわよね。だって見られたくないならそれこそ、外でなんかやらないもの」
「い、妹が好きなんだ……身体が弱くて、踊ったりは難しいから」
「なるほど」
「き、昨日も練習……というより、リハーサルしてたんだ。昨日、妹の誕生日だったから」
確かに用事がある、とか言っていたような……。
「そうだったの。ごめんなさいね、たぶん知ってても連れてっただろうけど」
「う、うん……なんとなくそんな気がする……」
でも、と。リィンは妙にそわそわしている様子だった。
するとママはなにか思い当たったことがあったのか、自然と話に入ってくる。
「誕生日と言えば……ほら、近所に有名なケーキ屋があるじゃない?」
「うん」
「あそこ昨日、大変だったみたいよ。夕方に4tトラックが二台突っ込んできたとかで」
「――――ッ!?」
わたしはママのその言葉に妙な違和感を覚えた。
何かとてつもないことをしてしまったような……そんな確信的な予感だ。
「まさか、ケーキを予約してたとか言わないわよね?」
「え。あ、い、いや……その、実はしてて。帰りに取りに寄るつもりで……でも」
「わたしが、無理に連れまわしたから……」
「う、うん。巻き込まれなくて済んだんだよ。だからその、ありがとうございます」
リィンは改まって丁寧に深々と頭を下げる。そして今、分かった。
彼がこれほどの技術を持っていて誰にも知られていない、根本的な原因を。
つまり未来で彼は昨日、トラックに轢かれて亡くなっていたんだ。
(これは、いいのだろうか……?)
彼に死んで欲しいわけではないのだけれど、死ぬはずの彼が死ななかったことで他の何かに多大な影響を与えたりはしないのだろうか。SFには詳しくないので正直よく分からない。
「だから昨日は、妹の誕生日どころじゃなかったんだけど……ニャタ……あ、アウラさんの話を母さんたちにしたら、お礼じゃないけど行ってこいって」
「そうなんだ」
どうりで昨日よりは抵抗が少ないと思った。
「僕は妹のためにしか上手くできない……ううん、やったことがないんだ……」
「昨日はどうだった?」
「目が……怖かった。それで、たぶん。表情が作れなかったりした……と思う」
「そっか。なら試しに何でもいいから舞ってみてよ、見てないからさ」
「み、見てないのに……やる、意味ある、の……?」
「いいから早くする。ママもいていいけど、見ないであげて」
「あらあら。なんだか急に丸くなったわねぇ、アーちゃん」
「アーちゃん……」
ぽつりと呟いたリィンをわたしはキィ、と睨みつける。
子供の頃からずっとあまり好きではない呼ばれ方だったからだ。
「じゃ、じゃあ……今、難しいと思ってて練習してるのを……」
というわけでわたしたちは彼に背を向け、耳だけに意識を集中させた。
視覚に頼らずとも足運びや単純な演奏技術は、音だけである程度察することができる。
「すぅ……」
呼吸が聞こえ、程なくリィンの奏剣が穏やかな旋律を奏で始めた。
同時にわたしとママは入りの二、三音で何の曲であるかも理解する。
(難しいって言うから何かと思えば、冗談でしょ……オラ・ド・ミュセールじゃない)
その曲は少なくとも、当時十五歳のわたしにはとても手が付けられなかった曲だ。
名の知れたプロの奏楽家ですら弾き損じをせず、かつ六時間二十五分という長尺を最後までやり通せる者は果たしてこの世に存在し得るのか。
フルで奏劇されることはまずないとはいえ、間違いなく屈指の難曲であり名曲だ。
(うん。やっぱりわたしの目に狂いはなかった……)
繊細な指先で織られる音色はしかし広大な草原を自由に駆け巡る少年のような無邪気さを感じさせ、五分少々のオラ・ド・ミュセールは、本当にあっという間に過ぎていく。
そこには彼が謙遜するような、ミスらしいミスはなかった。
顔を見ずとも分かる。恐らく誰よりも楽しく弾き、待っているであろうことが。
やがて音が止む。ここで終わってしまうのか、と。わたしとママは聴き入っていたこともあって少し拍手が遅れてしまう。紛れもなく心からの賛辞だ。
「すごいじゃない。謙遜も行き過ぎれば嫌味よ、あなた」
「す、すごいなんてものじゃないわ、アーちゃん。どこで拾ってきたのよ、こんな子!」
「天才でしょ。彼これで奏楽部に入らないどころか、たぶん独学よ。でしょ?」
「えぇっ!?」
「え。あ、はい……で、でもまだ全部は演奏し切れないから……」
リィンの言葉にわたしとママは思わず見合い、苦笑する。
その一言だけで独学を証明したと言っても決して過言ではない。
「あぁ、そうそう。見ないとは言ったけれどね、この部屋。色んなとこにカメラたくさん付いてて映像は撮ってるから、それは普通に見るんでよろしく」
「そ、そんなところだろうと思いました……」
「でも、その前に」
正直、奏楽を辞めるという話はどこへやら。わたしは今、猛烈に奏劇がしたくなっていた。
未来の経験を持った過去のわたしはどこまでやれるのだろう。それが知りたい。
わたしはこの頃使っていた奏剣――旧式モデルの〝レミアリュール〟と〝ヴォレーバント〟を構える。〝アーゼクス〟は未来のものだから、ないのは当然だった。
(……いくわよ)
奏でるのはオラ・ド・ミュセール。彼がやって見せたものの続きだ。
両手の激しい捻りや左右に行き来する高速演舞が続く。時には跳び、回り、休む間もなく奏剣を振るいながら一心不乱にリズムと音の奔流に没頭していく。
(いける)
全八部のうち、わたしが通しでミスなく弾けるのは四部まで。
と言っても譜面や振付通りにやるのが限界で、四部の完成度だけはひどかった。
確かに腱鞘炎や老いの影響もあるだろうが、なかったとしても五部は無理だったと思う。
良くも悪くもこの曲は矛盾を抱えているのだ。体力的に若い頃にしか挑戦できないにもかかわらず、若さが技術を兼ね備えているわけではないという矛盾を。
(でも、今なら……もしかしたら)
わたしは、この曲を最後までやり切れるのかもしれない。
何の枷もない自由と、プロであり続けるために死に物狂いで培ってきた技法の数々。
狂ったように全身が飛び跳ねる。痛みから解き放たれ、全てが思うように動いてくれる。
(……幸せだ)
このまま挑戦したい気持ちもあったけれど程々でアレンジを挟み、切り上げる。
「ふぅ」
まるで息が上がっていない自分にわたしは感動した。自分がどれだけ恵まれたものを持っていて、歳を重ねるごとにそれを失っていったのか。今なら痛いほどよく分かる。
「どうだった?」
「じょ、上手だと……思い、ます」
「ふふ、ありがとう」
「アウラ……あなた、いつの間にそんな…………」
「ママ?」
感極まったのか、母はつーと静かに涙をこぼしていた。
やはり動きの一つひとつから明確な違いを感じ取ることができるのだろう。嬉しい限りだ。
「親の贔屓目を抜きにしてもプロの演奏と遜色なかったわ、えぇ本当に」
(まぁ、一応プロなんだけれどね)
とはいえ、今するべきことはこんなことではなかった。
最優先はリィンとのデュオを仕上げ、恥ずかしくない勝負をすることにある。
「ありがとう、ママ。さ、リィン。とっとと練習するわよ、秘策もあるんだから」
「ひ、秘策……?」
困惑した様子で彼はわたしを見つめている。
「そ。あなた、とりあえず目をつむってやりなさい」
「い、いいのかな。げ、減点? されたりするんじゃ……」
「やらない理由を探してる暇があったらつべこべ言わずにやる! よろしいか!」
「は、はいぃ……」
そうして、たった二日しかない週末は瞬く間に過ぎ去っていった。
*
「緊張してる?」
「う、うん……」
週明けの放課後。わたしたちは奏楽ホールで行われる、入部テストに参加していた。
今現在も多くの上級生や顧問に囲まれる中。ソロで舞っていた女子生徒がひとり、この場で入部できないことが決定。泣き崩れていた。残酷だが、単純な実力不足だった
しかし全員が全員、合否が即決されるわけではない。
一定のボーダーすら超えていない生徒だけが今日落とされ、一部の生徒だけが同じく今日で入部が決定する。わたしの横で睨みを利かせるヒスナとエドガーは即日合格組だ。
「負けないから」
「あぁ、そうだ。負けねぇぞ」
「奏楽は勝ち負けじゃないわよ」
「よ、よろしくお願い、します……」
結局。即決で合格となったのは計五人。受けた人数は百を超えている。
未来だとわたしが加わっており、|豊作に挟まれた薄いハム《サンドイッチ》世代と揶揄されることとなる。
やがて絶望と一時の安堵が飛び交う中。ひとまず予定されていたソロが全て終了した。
すると一歩前に出て部長のフェリダさんが、こちらに不敵な笑みを浮かべて口を開く。
「――さて。本来であれば入部テストはこれで終わりになります。が、今日は特別にデュオをやってもらうことになっている人たちがいますので、もう少しお付き合いください」
知らされていなかった生徒たちがざわめく。一部は「あの二人やってなくね?」となっていたため、昨日あの場にいなくとも気付いている者たちはいた。
「まず先にヒスナ・ジャジナルとエドガー・マフキアが。その後で、リィン・ロウカーシャとアウラ・ニャタリカとなりますので。両名は準備のほどよろしくお願いします」
「さ、最後……」
「変わらないわよ、どっちでも」
数分後。準備を済ませたヒスナとエドガーが、先輩らを含めて数百人規模の視線を浴びながら舞台に上がる。眼には確かな闘志がみなぎっていた。
少なくともヒスナのあんな顔を見たのは、後輩たちに才能を見せつけられ始めた二年次以降だったと思う。そういう意味ではかつてより火がつくのが早まったと言える。
二人が目を合わせ頷き、直後。容赦のない速度で、しかし滑らかな音色が鳴り始めた。
(いい滑り出しだわ……)
流石だと思う。仮にも同じ中学。昨日今日の付き合いではないのだから、急なデュオだとしても上手く仕上げてこれるのは、ある程度当然と言えば当然だろう。
選曲は、演舞と演奏の双方のテンポがかなり速い『激昂』だ。
(分かりやすいチョイスよね、本当)
難易度が高いのはさることながらテーマとしては、個と個の対立を描いたものである。
どちらか一方が劣っていた場合、途端にそれは土台から崩壊してしまう。
そんなリスクを抱える中で、二人は見事なまでの一進一退の攻防を繰り広げるように互いの感情をむき出しにしている。矛先は言うまでもなくわたしなのだろう。
しかし二人はまだ高校生。二流だとしてもプロをやっていたわたしには、いくつかのミスに気付けてしまう。たった二日。やはりすべて上手くはいかないものだ。
雰囲気に吞まれていた生徒たちには、ほぼ完璧なものに聞こえたかもしれない。
顧問やフェリダ部長、キュキュ先輩あたりには確実に見抜かれているだろうが。
(けれどやっぱり、今はまだこんなものよね……)
未来を生きたわたしからすれば、とても物足りない出来だ。本当はもっと上手なのだから。
少なくとも当時、わたしが胸に抱いた嫉妬の記憶を呼び起こすには程遠い。
約三分後。奏劇が終了し、フィニッシュを決めるとこの日一番の喝采が沸き起こった。
その間、わたしは緊張しているリィンの手を取り真っ直ぐに彼の瞳を見つめる。
「やれそうだったら目を開ければいいから」
「う、うん……ありがとう、アウラさん」
入れ替わるようにわたしたちは舞台へと上がった。
静寂がホールを包み込む。トリを飾ることもあり、合否に一喜一憂する生徒はともかくとしても上級生たちからの視線には多くの意味を含んでいるようだった。
(準備はいい?)
向けた視線にリィンは小さく頷いてみせ、彼の動きに合わせる形で奏劇は始まった。
奏剣の鍵盤を抑える指が、翼を得たような身体が緩やかに踊りだす。
そして一瞬、ホールが騒めいたのも気配として確かに伝わってきた。
(ま、無理もないわよね。いきなり目をつむって舞い始めたら)
けれど、
(もっと彼を見なさい。そのための、マヘズのヴォサ・セッロなんだから……っ!)
「す……すげぇ」
音色がそよぐ風の中、ホールに誰かの声が漏れた。
マヘズのヴォサ・セッロはあまり難易度の高い曲ではない。しかしそれ故に音の深度や音色の質が奏者の実力として可視化されやすく、課題曲として選ばれやすい曲だった。
わたしがこの週末。独学で大抵のことをこなせるリィンに指導してきたのは、無意識にやっていたことに対する言語化。概ね、ただそれのみである。
すでにある技術をさらに磨くよりも、今ここでその動きを入れるのは何故なのか、と言ったところを重点的に改善していったのだ。
案の定、彼は見て覚えて……まぁ、それだけで天才的なのだけれど……なんとなくで行っていただけで。明確な意図を知った途端、彼のパフォーマンスはより具体性を増した。
テクニックの暴力ではなく、魅せる奏劇へと一気に色を変えたのである。
一を教えて十を理解する。恐らく教師としては最高の生徒だろう。
(さあ、好きなようにおやりなさい。わたしがあなたをフォローするから)
マヘズのヴォサ・セッロは、突出した個を二つも同時に求めてはいない。
そういう調和のもとに作曲されている。言わば片方が〝花〟、もう片方が〝額縁〟だ。
(わたしは〝額縁〟でいい……見てもらわなくてもいい。今はただ――)
緩急、抑揚、表情。それ以外の多くをわたしはリィンを際立たせるために費やす。
今も生徒たちは〝目をつむっている〟というインパクトで惹かれてからずっと、彼だけに夢中だった。きっとわたしは最終的に印象には残らないだろう。でもそれでいい。
「ずるいなぁ、あの子」
「ねぇ~。フェリちゃんみた~い」
「まぁ、ひどい」
いわゆる分かる人には分かる、というやつだった。
リィンが奏でる深い音をわたしのせせらぎが底上げしていく。
体感的には音を〝持ち上げる〟ようなもので、音色はホールいっぱいに広がっていた。
そうして、周囲に吐息も許さず曲を折り返す頃。リィンに変化が訪れていた。
(少し先走り始めた……? ふふ、楽しいんだ)
でも今は感傷の場面だから、急いではいけないところだ。
わたしはそれとなく音で自己主張し、たしなめる。
(そう。落ち着いて)
賢い子だ。低く低く、唸り声のような音がじわりと鳴り響く。
溜めに溜め、感傷をやめ、リィンは心も身体も躍らせて未来へ走り出いく。
押し込めていた気持ちを吐きだすように、彼は自分と戦い始めていた。
(あなたなんか、なんて言う人はここにはいないのよ。だからあなたは、あなただけの音の世界に連れて行ってあげて。あの時、茂みで見たあなたは確かにソリストだったんだから)
終盤。彼と演舞が交錯する瞬間、わたしは囁く。
「――ここには、違う世界があるよ」
「――――っ」
その時、新しい扉が開く音がした気がした。
(舞いが、音が……変わった?)
ホール内の空気が違うものになった感覚がある。
しかし異変の理由は周囲の反応ですぐに理解することができた。
「わっ」
「ねぇ、ちょっと。彼……笑った顔、可愛くない?」
数瞬後。覗けたリィンの横顔は、まさに咲き誇る花であった。
(子供みたい)
いや、みたいも何も子供か、と。そうわたしもつい自然な笑みがこぼれる。
二つの微笑がぶつかり、融け合って。風邪に乗って散っていくために最後の力を振り絞る。
『最後はふたりの方がいいんじゃない、かな』
『ううん。いいのよ、今日はこの瞬間はあなたのためのものだから』
もう彼には緊張や劣等感は感じられなかった。
なくなったとまでは言わないが、少なくとも今だけはどうでもよかったのだろう。
リィンが本番で一番の奏劇を見せてくれたことは揺らがない事実なのだから。
次第にわたしたちの旋律が生んだ世界がゆっくりと閉じていく。
テストなんてどうでもいいと思えるほどに濃密な三分であり、断言できる。
(初めてがこの満足感なら、たぶんもうやめられないわね。彼は)
やがて数秒の沈黙を経て、ヒスナとエドガーの時とは比べ物にならない拍手が鳴った。
「ブラボー!」
「半端じゃねぇぞ、お前らーっ!」
「……絶対、プロ行くやつじゃん」
「おれ、今度あいつに教えてもらおう……」
主に先輩たちからの声ではあったが、淀みのない純粋さが今は素直に嬉しい。
火照る身体を押さえつけながら、わたしはリィンと並んで一礼をする。
そして、頭を下げつつ今の率直な気持ちを訊ねた。
「楽しかった?」
「人生で一番……っ!」
「ふふ、それはよかった」
「~~~っ」
途端、リィンが顔を真っ赤にして先ほどまでが嘘のようにもじもじとし始める。
とはいえ昔ながらいざ知らず、今のわたしは四十過ぎのおばさんだ。
彼がわたしの微笑みにコロッと落ちたように見えたのは、間違いではない……と思う。
(確かに可愛いかも……ん?)
ふと刺すような視線を感じて振り向くと、ヒスナが唇を噛んで睨んでいた。
同様にエドガーも理解を超えた才能を前にして、言葉を失っているようだった。
それから顧問がマイクを手に取ると、拍手が鳴りやむ。
「リィン・ロウカーシャとアウラ・ニャタリカ。二人共、文句なしの合格です」
ありがたいことだ。認められるとやっぱり嬉しくなる。
でも、勘違いしちゃいけない。きっとここが……わたしの限界だから。
むしろ天才だともてはやされ、成長しなければ未来よりも落胆が大きくなるかもしれない。
だからわたしの奏楽は、ここでおしまいにした方がいいんだ……。
「とっても嬉しいです。ですけど、ごめんなさい。わたしの合格は辞退させてください」
「「「えぇっ!?」」」
「――ううん。それはちょっと認められないかな」
周囲が困惑を見せる中、即座に遮ってきたのはフェリダ部長だ。
「な、なんでですか……」
訳が分からない。合格して、わたしだけが辞退した。それだけの話のはずなのに。
フェリダ部長はくつくつと笑みをこぼし、少し意地の悪い調子で続けてくる。
「勘違いしているようだけど、彼はデュオとしてこのテストを受けに来た。だから貴女が入部しないのであれば、もちろん彼の入部も認められないのはルールです」
(…………っっ! や、やられた。このひと、最初からそのつもりで)
正直、忘れていた。彼女が〝周りを喰って成長していく〟天才だったということを。
さらには、数十年の蓄積を持つ〝今〟のわたしは絶好の素材だということを――――。
「あ、アウラ……さん。僕、アウラさんがいなかったら絶対、今みたいにはできなかった……です。それってたぶん、誰にでもできること、じゃないと思うんです……だから、辞めちゃうなんて勿体ないっ、です。その選択で本当に後悔、しないんです、か……っ?」
「後、悔…………」
わたしはずっと後悔して生きてきた。奏楽だけじゃない、人生そのものをもっと上手くやれたんじゃないかって、見て見ぬふりをしながら生きてきた。
死んで、何故か過去に飛ばされたりして。もう後悔したくないと強く思った。
だから同じ道を進むべきではないと思った……そのはずなのに。
(分からない。また奏楽をやっても限界が見えているような気がする……若い身体に経験を上乗せしたところでそれは結局、実力の前借りに過ぎないかもしれない)
それを知ることが堪らなく恐ろしい。
同じ絶望を、同じ落胆を、同じ苦痛を。味わいたくはない。誰だってそのはずだ。
(かつてとは違う輝かしい未来が待っている、かもしれない……でも、そう思ってしまう心はもう期待じゃない。そうあってくれないと困るだけの、ただの願望だ)
「人生は一度きりよ?」
(ごめんなさい。わたし二回目なんですよ、フェリダ部長……)
「――――もしっ!」
不意にそう声を張ったのは、予想外にもリィンだった。
「もし理由がないのなら………それなら、僕のために残ってくれませんかっ! な、何故だかは分からないけど……僕には、あなたが必要な……そんな気がする」
「リィン……」
「それに僕はっ、僕が人前でこんなにできるんだって知ってしまった。嬉しいんだ……まだ胸がこんなにも高鳴って、きっと今日の夜はちっとも寝れない! だからもう昨日までの僕には戻れない……戻りたくないっ! あなたはそうじゃないんですかっ!?」
「――――っ!」
まるで初めて奏楽を始めた頃の自分を見ているかのようだった。
でもあぁ、そうか。そんな単純なことだったんだ。奏楽をやっていない自分を想像できないのは、まだわたしの心が奏楽に向いているからなのよね……。
「ふぅ……分かったわ、入ります。これからよろしくお願いします、フェリダ部長」
「ふふ。ありがとう、歓迎するわね」
わたしのその返答に、引き留めた彼もホッと胸を撫で下ろしていた。
リィン・ロウカーシャ。きっとこの場の誰よりも恵まれた才覚を持っている少年。
このまま続けたとしても同じ高みへ行けるとは到底、思わない。だとしても、
(引き込んだ責任を取れ、ということなのかしらね)
気が付くとわたしは他の生徒たちの注目の中。リィンの手を取り、口を開いていた。
「彼には、先輩がたも含めて今ここにいる誰よりも才能があります」
「ちょ、ちょっと……あ、アウラさんっ、そんな、大げさなっ」
いきなり何を言っているんだと、周囲の過半数以上がそういう反応だった。
けれど将来、海外で活躍するごく一部の奏者だけは決して笑うことをしなかった。
「その彼が今はまだ、わたしの手助けが必要だと言うなら応えたいと。そう思って、だから奏楽部に入ろうと思いました。そして……どうせ入ることになるのなら、わたしたちは卒業までに必ず双極星に選ばれてみせます! ……でも、それだけじゃない」
息を吸い、一度リィンの目を見てから改めて宣言……いや、宣戦布告をする。
「わたしの手でっ、彼を誰もが認める独極星にしてみせますッッ!」
「「「――――っ!?」」」
「へぇ……?」
まるでフェリダ・クルスニクが選ばれることが決まっているかのような、対抗心を見せる物言いはさすがに数名の奏者の反感を買っていそうだった。
構うものか。どうせならやれること・やりたいこと全部やってやる。
前よりも上手くなって、恋愛も上手くやって、リィン・ロウカーシャにわたしの全部を注ぎ込んでみせる。決めた途端、視界が晴れていくような感覚になっていく。
「なのでご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたしますッ!」
わたしは満面の笑みを浮かべてそう言った。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
書きたいものと書けるものが一致していないのが、自分でも不甲斐ないと痛感します……。
(続きがありそうな感じなのと、恋愛要素が消えたのも反省しております……)
現在、本作の他に『あなたごときが彼の花嫁に相応しいとお思いで? 感情を奪われたわたしが幸せを知り、最後に笑うまで。旧題:無感の花嫁』という異世界恋愛ものと
『昔から何でも話してくれた幼馴染にある日突然「昨日、彼氏ができたんだよね」と言われ、クラスの女子に泣く泣く相談したら幼馴染の彼氏の幼馴染と付き合うことになった。』という現代ラブコメを書いていますのでまだ序盤も序盤ではありますが、よろしければぜひそちらも一読頂けると嬉しいです。
重ねてお礼申し上げます。ありがとうございました。