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刀(開戦ののろし、釈迦、煙草)

 あの時、光の剣を握っていた時のことを思い出そうとした。

 僕にはありありと想像できた。

 イメージする。

 呼吸を意識して。

 敵をイメージした。

 少し呼吸が乱れる。

 課題はそれだ。

 心を静める。

 無心で悪を断ち切る。


 鏡に自分が映っている。僕の中に引き裂く影はいない。

 今なら確信がある。ミサキは影に殺されたのだ。

 この怒りは開戦ののろしかもしれない。

 僕は影を、刹那を何としても駆逐する。


 それはどこか冷めた怒りだった。頭に血が上ることはない。


 僕はミサキと結婚した。ミサキはきっと僕の中で光を放っている。

 これも決まっていたこと? 僕にはまだわからない。きっとそれは運命が教えてくれるのだろう。 


 突然、閃きが頭をよぎった。立ち鏡の前に座り瞑想した。

 しかし鏡に映る自分を見ないように意識しながら目を開けて。

 鏡には何もみえないと暗示もかけた。

 時間にしてどれくらいだろう。目の前にじぶんの姿をした釈迦が見えた。これには驚いた。目を見開いて鏡を凝視するとそこには僕の姿があった。


 これは恐らく心眼というやつだろう。これもきっと戦いの為に使える。

 人に取り憑いた引き裂く影を見付けることができる。

 それにしても自分の姿が釈迦?

 僕は確かに修行のような日々を送ってきた。だけど、そんな次元に到達しているとはとてもじゃないけど思えない。


 愛別離苦、という言葉が浮かんでくる。長らく心に空いたままだった空間。それを今はどこかしこに感じられるミサキの気配が埋めてくれている。この世のものではない何かと結ばれる。それは釈迦のような生き方に繋がるのかもしれない。


 長い間、部屋から出てなかったので、目的を定めることもなくあてのない散歩にでかけた。修行中一番怖いのははまって抜け出せない事だ。何故かその危機管理ははじめから僕の場合は備わっていた。


 それはきっと心の地獄の中で、否が応でも息をしなければならなかったからだろう。誘惑や色んな欲求は、いつの間にか消え失せていた。


 通りを往く人達は、なぜか幸せそうに見えた。子供たちの声が心地良く耳を擽った。出店の焼き芋屋から柔らかい匂いが漂って来ては、僕の鼻腔を刺激した。匂いだけで満足だ。青果店の前を通り過ぎる時も、熟れた果物の香りが僕の心を優しく撫でた。


「外では、決して能力を使わないで」

 突然、ヒカリのテレパシーが鳴り、僕は受け止めるだけにしておいた。能力の制限。刹那に会わないように僕は家に帰ることにした。小一時間は歩いた。 


「煙草を買ってきて」

 何をいうかと思えば、煙草か。何故だろうか。早く理由が聞きたかった。僕は煙草をコンビニで買い、走って帰ることにした。


 煙草なんて買ったのはどれだけ振りだろう。アパートの扉を開けて、いつものように胡座をかく。座禅をする時と同じだ。


「煙草に火を付けて」


 僕はパッケージを開いて、中身を取り出す。そして言われた通りにする。


 煙が部屋に立ち込める。紙煙草特有のくすんだ匂いを嗅いで、僕はくらりときた。すごい刺激だ。


「煙をちゃんと見て」ヒカリの声が指示を続ける。


 煙に集中し始めると、幻覚が見えた。アラジンの魔法のランプのように。


「煙の色は何色に見える?」

「赤紫」 

「それはあなたの保護色よ。よく覚えてて」


 保護色とは何だろう。頭がくらくらして酔っ払ったように感じる。


「あなたは戦わなければならない。私の教えられることはそう沢山はないの。だけど、あなたには生きていてほしい。生き残ってほしい。だから、できるだけのことはする」


 ヒカリの声はそう続けた。心が乱れてるのだろうか、少し混線している。僕の心が? それともヒカリの心が?


「イメージして。あなたが吐き出した煙は、完全にあなたの自由になるはず」


 僕は試みに刀をイメージしてみた。ただ霧散していたはずの煙が形を持ち始める。


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