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僕の日常(修行、ペニス、ミサキとの結婚)

 起きると、汗でぐっしょりだった。

 いつの間にか眠っていたらしい。


 昼と夜のコントラスト比の夢を見た。

 まるで時代劇みたいな夢だった。

 何かを象徴するような抽象的な夢だった。

 自分自身で分析できなくもなかったが、経験上、何もかも具体的にするのはいかがなもんかと思いとどまった。


 喉の乾きに苛まれ、眠気は急速に遠のいていった。冷蔵庫からボトルウォーターを取り出す。

 引き裂く影の気配を感じようとする。

 自分の中に巣食った闇の存在。今の僕にはわからない。それはどこから来て、何を目的としているのだろうか。


 ただ一つだけ言えることがある。僕はそいつを、そいつらを、倒さなければいけない。


 夢の内容をまた思い出そうとする。そんなことをしても無駄なのに。

 無駄、と僕は思った。

 影がいなくなっても、僕はそんなことを考える。普通の人間だ。


 振り返ると、自分は当然のようにミサキの死から修行までしてきたが、自分自身で普通と思うだけでもうかなりの行という難易度の高い訓練が終わっているのだと実感した。


 テレパシー、光の世界、刹那。


 今日という日はどんなオープニングの元始まるだろう。


 僕にはいくつかの選択肢があった。瞑想をして過ごす、街に出て影を探す、長い時間を掛けて食事をする。


 僕の食事は修行の末、僅かな野菜と穀物が中心のものに変わっていた。

 それを一口に付き十五分は噛み続ける。

 だから、必然的に長い時間が掛かる。

 そして、食事回数は劇的に減り、そもそも腹が減るということがなくなっていた。


 僕は、部屋に山積みになっている本の中からヨガの本を取り出して、ページをめくった。

 ヨガをやるとグルという霊的指導者が付くとある。

 僕の場合はヒカリだろうか。

 この世の真理、宇宙の法則、超能力の開発等。

 確かに、我が身を振り返れば当たっている。

 アーサナという体操と瞑想を繰り返すだけでも、というよりは、それ以外に方法論は存在しない。

 拡大解釈すると、その様なことが書かれていた。


 僕は本に書かれたやり方でハタヨガのポーズを実践することにした。

 タダーサナ(山のポーズ)から始め、ウッティタトリコアアーサナ(三角のポーズ)まで進めてみる。

 すると三十分ぐらいで自分の体に変化が現れた。

 体を捻ったり伸ばしたりするとき、骨が異様な音を立てて鳴った。

 そして、えも言われぬ爽快感が全身を包んだ。


「悪魔の儀式だけはやめてね」僕はドキッとした。

 実は今、その事に考えを巡らしていたからだ。

 悪魔の儀式はヨガの異端派のするヨガの卒業試験みたいなものだ。

 これは自分のペニスを自分でしゃぶる行為だ。

 変態でもあるかもしれないが、なかなか座位でペニスを口にもっていくのは相当身体が柔らかくないとできない技であるのだ。


「さすがに悪魔の儀式だけは禁止だよね」

 ヒカリは、怒っているような沈黙でもって答えた。


 精神の事柄と肉体の感覚、快楽なんかは、それぞれ相互に関係し合っている。

 僕は、そういったものの真ん中で揺れ動いている自分自身に気付いた。

「あなたはミサキお姉ちゃんと結婚したの。だから、浮気は駄目。そんなことをしたら死んじゃう」


 ヒカリの声が説き伏せるような調子でそう僕に伝えた。

 そうか、僕はもう性的なものから、身を引かなければいけないのか。


 それは既にわかっていたことのようにも思えた。

 ミサキと結婚した。

 それがどういうことなのか、いずれわかる時がくるだろう。


 今は、色んなことを整理するときかもしれない。

 一個の確かなものは瞑想を繰り返す事だ。

 左脳から右脳に切り替え、宇宙意識に繋がること。

 僕は、瞑想法を限界時間を超えるようなやり方に変えようかと考えた。

 結跏趺坐にしてお釈迦様の悟りを開いた瞑想法に変えてみる。

 ハタヨガのおかげで、それはあまり苦しくはなかった。

 印を仏教式にムドラーから変えてみた。

 曹洞宗でいうところの禅だ。ただ座れ、というところだろう。

 僕の心には予感のようなものがあった。


 それは瞑想と「光の剣」が繋がっているのではないかということだ。雑念が消えれば、それだけ剣の切れ味は向上する。

「意識を集中して。呼吸があなたを助けてくれる」

ヒカリの言葉だ。

 悟りを開くだとか、宇宙と一体になるだとか、そういう大それたことは考えない。ただ、切れ味を深める。

 それが僕という存在をより鋭く示してくれる。



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