はじまりの その四
モンスター、はどこ?
私はパニックになったままがむしゃらに走り、でも、パニックだったために何かに足を取られて大きく地面に転がった。
そこで身動きが取れなくなった私は、草の間から飛び出して来たモンスターに襲われているはずだった。
でも、私には何も起きていない。
飛び掛かって来たモンスターがどんな奴かも見ていない。
だって、目の前が真っ白だ。
そっか、即死したんだ。
「ごめんね。赤ちゃん。私が馬鹿だったばっかりに」
私は腕の中の赤ん坊へと視線を動かす。
赤ん坊は何ごとも無い顔で左手の親指を加え、そして、……え?
赤ん坊の右手の人差し指から、何か、白い糸が出ている?
その糸はヒュルヒュルと動いて、動いて?
私と赤ちゃんは繭の中にいた。
ええと、赤ちゃんと私はモンスターに喰われていないけど、繭の中?
「ええと。あなたもモンスターだったのかな?」
赤ん坊は真ん丸な目を私に向け、首をこくっと傾ける。
何かなって風に。
可愛い。
「違うわね。あなたは私とあなた自身を守っただけよね。すごいわ、赤ちゃん」
赤ん坊はニヘラと笑う。
可愛い。
そうよ。この子はモンスターじゃない。アイザックさんも可愛いは正義とか言っちゃっているもの。この子はモンスターじゃない。
よし、後はどうやって町に帰るか、だ。
「きゃあ!!」
私と赤ちゃんの入っている繭が持ち上げられた、のだ。
そこで私は気付いた。
そっか、そうだ。繭の中だから見逃されただけで、まだまだモンスターは回りにいたんだねって。
うそおおおお!!繭ごと食べられる!!
え? 何も起こらない?
どうやら繭は硬かったらしく、繭内部には何も起きなかった。
ただし繭の揺れはダイレクトに内部の私達の内臓までも揺らす。うぷ。
もちろん吐き気があろうが、私は赤ちゃんをずっとずっと腕の中で守っていたわ。
でも、自慢する場合でもない。
だって今の状況って、モンスターが私達入りの繭をお弁当みたいにして持ち帰ろうとしている、という状態だってことじゃないの。
これは草むらの中での絶体絶命時よりもきつい絶体絶命続行中だわ。
だってどこかに、きっとモンスターが落ち着けるところに連れていかれちゃうのよ。
ゆっくり食べられるの? 繭ごと煮られちゃったりするの?
もういっそ一気に殺せよおおお!!
私達の入った繭はゆさゆさ揺らされながら、まだまだどこかに向かって運ばれている。
絶望に心の中でドナドナ(アイザックが作詞作曲したらしい歌。怖いギルマスに連れていかれる冒険者を見ては、彼は歌い出すのよね)を歌う私をあざ笑っているようだ。
これで私と赤ちゃんの未来はお先真っ暗。
「ああ、どうしようどうしよう」
私は赤ちゃんから右手だけ外し、その手で鞄の中を漁る。
チュートリアル魔法が詰まったスマホ。
これでアイザックさんと連絡が付けば、お兄ちゃんが助けに来てくれる。
「ああ。でもモンスターの親玉がB級以上だったら。C級になったばかりのお兄ちゃんでも無理かも。でも、お兄ちゃんはC級の魔物を討伐してC級になったんだし。それにそれに、ギルドにはB級の冒険者だっている!!」
私は希望を込めてスマホを取り出した。
が、私の希望はぺしゃんこになった。
静かになったスマホのど真ん中に、静かになった理由が書いてあった。
「圏外」
うわあああああああああん。