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出会いな その三

拮抗状態だった兄と勇者に動きがあった。

勇者は兄から飛び退き、剣から左手を外すや大きく腕を振る。

え?


ガガガガガガガ。


地面を削りながら見えない何かが私とアイザックさんが立つ場所へ迫って来る。


「大盾!!」

「上昇竜旋風!!」


兄とアイザックさんが同時に叫ぶ。

私とアイザックさんの目の前に兄が呼び出した土壁がにょきっと生えた。が、勇者が向けた重い空気の弾丸は兄の盾を破って粉々にした。


だが、兄の盾と同時に発せられた魔法によって勇者の弾丸は防がれた。

ごおっと下から巻き起こった凄い風によって、勇者の弾丸は方角を変えて天へと飛ばされて消えたのだ。


「レット、MP回復薬だ。頑張って勇者を抑えろ」


アイザックさんは兄へと小瓶を投げる。

兄は当たり前のようにそれを受け取り一気に飲んだが、でも回復したどころかガクッと膝を地面に突いた。魔力枯渇をしていたからだ。

それなのに、私を守ろうと。


「お兄ちゃん!!」


地面に膝をついていた兄は、私にニヤリと笑う。

そして、崩れ落ちてなんかいない、これこそ狙いだった、という風に両手で地面を叩いた。


「アイザック。ヨッコを安全な場所に連れて行け。大盾!!」


ダン、ダン。


三枚もの壁が地面から出現した。

兄の後ろに兄の逃げ道を塞ぐように一枚。

あとは勇者の後ろに出現した。

それは勇者が兄からそれ以上離れて行かないようになのか。


「この意味があるのか。レット」


「拳で殴り合うための拳闘場ってやつだ。そことここ、俺の大盾が出て来たところっから出たらそこで場外だ。大盾はすぐ消えるんだから場所覚えておけよ」


「だから意味わかんないよ。なんで君と殴り合わなきゃなんだよ」


「うるせえよ。俺が決めたからだ。勇者じゃねえってんならな、その御大層な剣を捨てろ。そんで俺をブチ殺しにきやがれってんだ!!」


兄ぃ、カッコ良す。

でも、言ってること、無茶ぶり。


「レット!!そんなに俺とパーティを組むのが嫌なのか!!あんなにあんなに俺に色々しておいて、俺を捨てるって言うのか!!」


え?


「俺はこの町から出られねんだから、国内外呼び出される勇者とパーティは組めねえって言ってるだけだろうが。好きも嫌いも捨てるも何もあるかよ」


「好きも嫌いもって、どっち!!」


「あ~、お前のことか? 好きな方かな」


「好きなんだったら、一緒に冒険してよ!!」


え?


兄と勇者は、パーティ組もうぜ、いやだぜ、で喧嘩しているだけ?

町ひとつ破壊しそうな戦闘の理由が、それ?

町破壊してるのに、なんか恋人同士の痴話げんかみたいな応酬?


ぴろろろん。


兄達に頭が痛くて眩暈がして来た私の目の前に、空気読まないクエスト表示が再び私を追い込んで来た。早く達成してって感じで。


うん、わかるよ。

達成条件に勇者が捨てた良心を取り戻させるがあるものね。

兄はその説得をしているんだよね。

私を連れて逃げるのを忘れて、なんか虚無った顔でアイザックさんはお兄ちゃん達を眺めているけど、大丈夫なんだよね、お兄ちゃん!!


「だから、できねえ、つってんだろうが!!」


兄い。


「レットが一緒じゃ無いんなら、勇者なんか止めてやる!!」


勇者ぁ。


「ガキかお前は!!こんな破壊しくさって。皆様に申しわけありませんとかそんな気持ちはねえのかよ!!」


「破壊はレットだってしたじゃないか。申しわけない? そんな気持ちなんか、草っぱらにでも捨てて来てるよ!!」


むっちゃむっちゃむっちゃむっちゃ。


お兄ちゃんと勇者にドンびいて冷静になったせいか、背負っている赤ちゃんが干し肉をむちゃむちゃしている音が良く聞こえます。

って、あら?

私は背負い紐をほどいて、赤ちゃんを腕に抱き直す。

それで、赤ちゃんと勇者を見比べる。


金髪に緑色の瞳の、とっても可愛い外見。

勇者は言った、草っぱらにでも捨てて来た、と。

そして私にクエスト達成を要求する、スマホの文字。


達成条件2 勇者に良心を取り戻させる


そっか、これか、これなのか。

私は赤ちゃんを抱き締めると兄と勇者の方へと駆けて行った。

今にも殴り合いそうな、びりびりした殺気ばかりのその中心にへと。


「いいか、アレンって、ヨッコ!!」

「一緒に来てくれないなら、どうして引き止めるんだよって危ない!!」


私は二人の拳の洗礼を受けるところだった。

でも、赤ちゃんのお陰で無敵な繭になっていた。

ええと?


テレッテー。


「勇者を止めろクエスト 達成条件2の完了につき達成しました

 冒険者ヨッコに経験値20加算されました          」


経験値ひっく。

でもなぜか、クエストは達成されている。


ふう。


だけどやっぱり赤ちゃんは、勇者の良心ではなかったようです。

勇者の心の中に消えるどころか、私の腕の中でむっちゃむっちゃまだしてます。

ですよね。ただの赤ちゃんですよね、この子は。

消えなくて良かった。

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