出会いな その一
私とアイザックさんは、町のギルドに足を踏み入れることができなかった。
城門を潜ったそこで、町の広場へと兵士に無理矢理引っ張られたのです。
広場? どうして? あ、見知らぬ赤ん坊を連れ回しているから?
もしかして誘拐犯だと思われました? それで広場で処刑とかされるの?
違いますよ!!
広場に着いた瞬間、私は誘拐犯と罵られる方が良かった、と思いました。
その場合は絶対に同情してもらえるじゃないですか。
お兄ちゃんが助けに来てくれるじゃないですか。
「あああん。どうしてお兄ちゃんが広場を破壊しているのよ」
広場の真ん中にある噴水はすでに破壊され、足の部分が折られ横倒しになった女神像の手の平から水がちょろちょろと地面に流れ出てる。本来はその手の平から水が天に向かって吹き出しているのに。
女神ガブリエンナが聖なる魔法を民に施してくださるそのありがたい姿を模した像が、町の名前にもなっている素晴らしきガブリエンナ様が、蹂躙されてボロボロなお姿で地に横たわっていらっしゃる。
広場の石畳は全て剥がされ、地面は蜘蛛の巣上にひび割れている。
それから、広場を囲むように植樹されていたパウの木は、根元からぽっきりが二本に真っ二つが三本、生木なのに燃え盛っているのが一本、あ、たった今幹ど真ん中からぽっきり折られた。
情景に魂が抜けてしまった私の肩に、アイザックさんの手を乗った。
慰めるように。
「兄は労働奴隷に落とされてしまいますか?」
「彼一人じゃない」
私も?
ハッとした私は兄へと視線を動かす。すると、空中をぴょんぴょん飛ぶ何かが兄にぶつかった瞬間を視界が捕らえた。
兄は赤いもやが覆う何かと戦っていた。
「大盾!!」
ズウウウウウウン。
地面からにょきっと壁一枚が突き出し、兄へと飛んできた少年がその壁に大音と地響きを立てて衝突した。
「邪魔をするなああああ」
兄の大魔法の大盾が粉々に砕けた。
兄の土の壁を砕いた少年の手には、少年が扱うには大きすぎる剣が握られていた。
大剣といえば、勇者の印だ。
「どうしてお兄ちゃんが勇者と戦っているの!!」
「それはギルドルールかな」
「ギルドルールって、町に勇者が来たら実力を測るために戦いを仕掛けねばならないとか、そんな馬鹿なルールじゃないでしょうね」
「いや。冒険者登録したばかりの子供は先輩冒険者と行動をしなければいけないって、レットもキレたルールのせいだと思う。勇者もキレたんだな」
「キレた勇者に対応できるのがお兄ちゃんだけだってこと? ギルド職員は一体何しているのよ。他の大人の冒険者もそうだし、勇者キレさせた奴も!!責任を取って勇者を止めなさいよ!!」
お兄ちゃんは勇者の剣を避けるのに必死に動いている。
兄は剣を受けて、その剣を押し返しながら押し返す剣で相手を斬る。
だけど、多分勇者の剣の破壊力が大きすぎるから、いつものように受けられないのだ。
だから防戦一方。
SPDは勇者の方がきっと倍ある。
このままじゃ勇者にお兄ちゃんがなますにされちゃう!!
「お兄ちゃんが怪我をしちゃったらどうしてくれるの!!」
「それも責任の取り方として一つかな。勇者キレさせたのレットだろうし」
「お兄ちゃんたら何やってんの。自分がされた嫌なことは人にするな言うくせに!!」
ぐわん。
大きく兄と勇者が激突し、そのまま二人は動かなくなった。
振り下ろされた剣と受ける剣、両者の力が拮抗してしまったのだ。
あ、兄が勇者の剣を止めただなんて、兄すごい。
ピープピープピープ。
兄の凄さを再確認する私に、空気読まないスマホがが鳴りだした。
そして、読みたくないのに、クエストを発動した。
黄色い板には、「クエスト 勇者を止めろ」なんて書いてある。
ちょ、お前、私にできるとでも?