はじまりの その一
私は初級冒険者のヨッコです。
13歳です。
カラフルな人達ばっかな世界では焦げ茶糸の髪に瞳は地味だけど、お兄ちゃんとお揃いなので自分的には良きかな、という感じです。
さて、そんな私は、今日もソロ活動しています。
本当は子供の冒険者は安全の観点から、一人でクエストなど受けてはいけないのだけど、私のお兄ちゃんが規格外なせいでソロなのです。
お兄ちゃんがいるならソロじゃ無いって?
規格外なお兄ちゃんは冒険者登録からたった二年でC級になっちゃった十五歳という規格外です。だからこそ、今日も彼はソロでC級以上の魔物を狩りに行くという、規格外な行動を取っているの。
もちろん、私は大人しく待っていなさいって言われたわよ、兄に。
でも、安宿で一人で待っている方が危険が多いから、私は兄がいない時は薬草採取のお仕事に出ているの。お小遣い程度の褒賞しか出ないけど、安全第一だし、なにより私はお金を少しでも貯めたい。
お兄ちゃんが大怪我したら大変じゃない? 私が。
「ヒカエリソウ確認しました」
棒読みの女の子っぽい声が薬草の存在を私に告げた。
次に、私の目の前に黄色の長方形の板が出現する。半透明なその板には、分かりやすく大きな黒い文字が書かれている。
「クエスト ヒカエリソウ採取
達成条件 ヒカエリソウ12本を採取してギルドに持ち帰ろう」
私が読み終わる頃に、そのちかちか輝く半透明の板は消えた。
その代わりのようにして、オレンジ色の矢印がたくさん出現する。
林の中に隠れて生えているヒカエリソウがここにあるよって知らせる矢印だ。
「すごいなあ。アイザックさんてギルドの受付に座っているだけの人じゃなかったんだ」
また黄色の板が出現した。
失礼な、とだけ書いてある。
うん、失礼だった。
アイザックさんは子供の冒険者達を心配するあまり、一人でも安全に冒険できるようにチュートリアル魔法とやらを開発された方なのだ。ええと、オートマッピング機能とヒカエリソウを発見してくれたみたいにアイテムがあれば知らせてくれる機能、あと、アイザックさんとコミュニケーション取れる見守り機能?
手の平よりも大きな長方形の石板に、それらの魔法が詰め込んであるらしい。
検索魔法がぎゅっと詰まった、スマートで本当に役立つ石板、スマホ、とアイザックさんは自慢しておりました。この世界でスマホだよって。
そして私はそのありがたいスマホを最初に利用できるモニター。
だけどこれ、鞄に入れっぱなしでも動作する優れモノだけど、ちょっと邪魔。
もう少し小さくならないのかと尋ねたら、郷愁を否定しないでくれ、と言われた。
意味わからん。
だけど、と私は矢印だらけの林の中を見回す。
「すごいです。たった一本探すだけでも半日かかるヒカエリソウが、こんな一瞬で12本どころかもっと手に入れられるなんて。これもお兄ちゃんのお陰ね」
私はアイザックさんではなくお兄ちゃんにこそ感謝した。
なぜならば、お兄ちゃんが大暴れしてくれたおかげで、子供は先輩冒険者と行動しなければいけないギルドルールから私までも免除されたのだから。
それでボッチになった私にこんな美味しい話が転がって来たのだから、ほんと、お兄さまさまである。