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異世界の辺境でもふもふといっしょにのんびり暮らします~虐待された少女は異世界の夢を見るか~  作者: くーねるでぶる(戒め)


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021 ぢゅーる?

「止めよ、舞! 我は、我は清潔である!」


 抱っこしたクロが、胸の中で暴れまくっている。そんなにお風呂が嫌いなのか。気持ちいいと思うんだけどなぁ。


 今は、宿屋のお風呂に入ろうとしているところだ。


 ドラゴン騒動の時にグウェナエルの所に走って汗をかいちゃったからね。汗を流すつもりである。


 ついでにクロも洗おうとしたら、クロが猛反発しているのだ。


 でも、この先いつクロを洗えるチャンスがあるかも分からないので、私としては絶対にクロを洗いたい。


 ちゃんと事前に宿の人に猫を洗ってもいいと許可を貰っているので、ここは譲れない。


「クロ、あんまり暴れないで。すぐ、もうすぐに終わるから! ちょっとだけだから!」

「そんな言葉では騙されんぞ!」

「がんばったらアレあげるから。チーズあげるから!」

「くっ……!」


 クロが悔しそうに口ごもる。こっちの世界に来て初めて知ったけど、クロはチーズが好きらしい。チーズが好きな猫って変わってるわよね。


「チーズでもいいが、どうせなら我はアレが食べたい」

「アレ?」


 クロが大人しく体を洗わせてくれるなら、私としてはなんでも用意してあげるつもりだ。だけど、アレって何だろう?


「あのカラフルな細い棒に入った魚や肉の味がするやつだ」

「細い棒……?」


 そんなのクロにあげたことあったっけ?


「なんと言ったか……。ほら、我を洗ったり、我の爪を切った後にいつもくれたではないか」

「もしかして、ぢゅーる?」

「おお! そんな名前だ! 我はそれが食べたいぞ!」

「うーん……」


 クロのお願いだから叶えてあげたいけど、さすがに異世界にぢゅーるは売ってないよね……。どうしよう?


「その……ね。クロ、ぢゅーるはもう手に入らないかもしれないの」

「なん、だと……!?」


 クロの耳がぺたんと垂れて、ひどく落ち込んでいるのが分かった。でも、私にはどうすることも……。


 ん……?


「無ければ作ればいいのかな……?」


 ぢゅーるって、簡単に言っちゃえば、お肉やお魚をドロドロになるまで潰した物よね? それなら作るのはわりと簡単かも?


 私はぢゅーるの作り方なんてもちろん知らないけど、なんとなく作れそうな気がした。


「クロ、そんなに落ち込まないで。私、ぢゅーるを作ってみるわ!」

「おお!」


 クロが顔を上げて、私をまん丸の瞳で見上げた。かわいい。声がおじさんなのはマイナスポイントだけど、最近では一番の笑顔だと思う。


「しかし、そんなことが可能なのか?」

「さすがに最初から上手くいくとは思えないけど、いつかはぢゅーるを完成させてみせるわ!」


 クロが私の腕にぽふっと肉球を乗せて、キラキラした瞳で私を見上げてくる。


「期待しているぞ、舞よ」

「うん! だから、クロもちゃんとお風呂に入ろうね!」

「……はぁ。分かった……」


 尻尾がへにょんと力無くうなだれて、クロが不承不承といった感じで頷いたのだった。


「まずはお湯をかけるわよー」

「もう、好きにせよ……」


 クロのもふもふの毛並みにお湯を浴びせると、ビックリするほど細いクロの体が浮かび上がった。


 態度が大きくて、ついつい大きく見えがちなクロが、実はこんなにも小さな体をしている。ちょっと頼りなく見えて、かわいそうなぐらいだ。そして、そのことに庇護欲を誘われてしまう。


 クロは私の弟なんだから、姉である私が守ってあげないと!


「なにやら失礼なことを考えていそうだな?」

「そんなことないってば。じゃあ、洗っていくわよ」

「はぁ……」


 クロの深いため息なんて無視して、私はクロの体を石鹸で洗っていく。


「にゃにゃ!? クロってばそんなに小さかったのにゃ!?」


 お湯と石鹸で毛がしぼんでしまったクロの姿は、アメリーもビックリするほど小さく見えるようだ。


「小さいと言うがな、これでも猫の中では大きな方なのだぞ?」

「そうだけど、かなり貧相に見えるにゃ?」

「ひ、貧相!?」


 クロがショックを受けたようにうなだれてしまった。


 まぁ、うん……。たしかに貧相と言えなくもないけど……。もうちょっと言葉を優しくしてあげて!



 ◇



「くー……。とんでもない目に遭った。ぢゅーるの約束は必ず果たせよ?」

「はいはい」


 浴槽の近くで毛づくろいするクロ。私はそれを浴槽の淵に頬杖をついて見ていた。ちっちゃな舌で一生懸命毛づくろいするクロの姿は、濡れてしぼんでしまった姿と相まって、かなりかわいそうなものに見えた。


「そんなに嫌だったの?」

「自分の体から変な臭いがするし、毛がキシキシになってしまった。控えめに言っても最悪の気分だ……」

「そっか……」


 いつも使ってた猫用のシャンプーじゃなかったもんね。クロとしては、仕上がりに不満しかないらしい。


「でも、石鹸で洗ったから綺麗にはなったはずよ?」

「洗わなくても我の体は清潔だったのだ! 毛づくろいを欠かした日はないぞ!」

「そうかもしれないけど……」


 考えてみれば、野生の猫って石鹸で体を洗うことはないね。クロが清潔と言うのなら、清潔だったのかもしれない。


 でも、やっぱり石鹸で洗った方が綺麗になるというのは、人間のわがままなのかな?


 クロが目を半分にして私を見る。まるで睨んでいるようだ。


「分かってます! ちゃんとぢゅーるは作ってみるから安心してよ」

「反故は許さぬぞ?」


 その後も、クロの私を見る目は心なしか厳しかった。

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