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この、陰険男がああああ!!!

「――……」

これは、どうしたものか。


カエルムに来てから早いもので二月が経過した。

その間得た情報その他諸々を繋ぎ合わせたヘリアンサスの頭の中では、まさかまさかの仮説が出来上がりつつあった。

自分でも少々信じ難いことなのだが、何度考え直そうとしても否定できる材料がないのだ。

専ら彼女の頭を悩ますのは、その仮説の取扱についてだった。

当たっていようと外れていようと、話運びをしくじれば長老は本気で憤死するかもしれない。


「何じゃ、また何か用か。

近頃は押しかけてくることもなく、大人しかったというに……

べべ、別に心配したわけではないがな!!

うるさいのがおらんで清々しておったわ!」


その日会いに行った長老は、相変わらずというか何と言うかな様子でこちらを出迎えた。

早速説得に入りながらも、頭の中は目まぐるしく動いている。

時機を慎重に探っていたその時、それはやって来た。


「……ですから、陛下にはドミニク家の力が必要なのです。

天もまた国王陛下の弥栄を望んでいることから……」

「天がどうあろうと、地上には人の事情がある。

陛下は我らが戴くに相応しくない。

そうした空気が一度形成されてしまった以上、変えることは困難を極める。

我が家が危険を冒して味方するだけの価値が、陛下にあると宣うのか」

「その通りです」


――突如響いた、聞き覚えのある声にヘリアンサスはぎょっと振り返った。


「失礼しますよ。長老殿、聖女様」


入ってきた黒髪男は妙ににこやかだ。

その顔を見て、何だか壮絶に嫌な予感がした。

悪寒が走るまま、微妙に椅子から腰を浮かせる。


「……何じゃ、アドラーの小僧。

ここに来るなどという知らせは受けておらんが。

倅はもう良いのか」

「伯爵には、条件によっては陛下の支持を表明しても良いと了承の旨頂きました。

しかしやはり父のことが気掛かりだ、早急な援護を求めるならばどうにか説得してくれまいかとそう言われました。

……私が口を挟めたことでもないでしょうが、御子息にあまり心配をかけるものではありませんよ」

「余計な世話じゃ、小賢しい若輩者が……」


嫌そうに顔を顰める長老に、いきなり黒髪男はぶっ込んだ。


「ドミニク家の城での滞在時、面白いことを耳にしたのですが。

その昔、貴殿は歌姫ベアトリスにご執心だったそうですね」


――――おいこいつ何を言い出す気だ!!

勢いよく顔を跳ね上げたヘリアンサスに構わず、黒髪男はどんどん話を続けていく。

リリウムは状況がよく分かっていないのか、きょとんとした顔だ。


「そそその、まずお茶でも如何ですか?

話は一息ついてからでも……」

「ベアトリスと言えば、この街が輩出した高名な歌姫です。

三十年前カエルムで活動していた彼女はある貴族に見初められ、後見を得た。

そのパトロンとなった貴族は、貴殿の積年の競争相手だったそうですね。

しかし女を巡る争いに敗れ、結果ベアトリスは王都に拠点を移してしまいカエルムから離れることになった。

ここまで分かれば大抵の流れは読み取れます」


「少し!外に出て休憩しませんか?

話はそれからでも遅くは――……」

「当時神殿に出入りしていた者にも確認を取りました。

当時銀三枚で売り出していた、恋の実るロケットとやらを長老も持っていたのでしょう?

あからさまな仮装、失礼変装姿で買いに来たものだから今でも覚えていると証言してくれましたよ」


「――――良いからもう止めなさいって言ってるでしょうがこの陰険男がああああああああ!!!」


もう見ていられず、まだまだ続けようとするその頭を張り倒した。

一向に止まらない、寧ろ勢いを増し続けるその駄弁を強制的に断ち切る。

いきなり押しかけた挙げ句なんて真似してくれやがるのだこの男はこれまで積み上げたもの全部水の泡にする気か!


それでもまだ、無駄に綺麗な笑みで何事か言おうとする黒髪男を出口まで引きずっていき、半ば蹴り出すように締め出して、勢いよく扉を閉める。

扉を背にその振動が体に響いて、大したことはしていないのに物凄い疲労感があった。

けれどここで倒れるわけにはいかない。


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