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リリウム全快のお礼、でも…

翌朝、熱がぶり返すこともなく、リリウムはすっきりした様子で目を覚ました。


「おはよう。もう体は大丈夫かしら」

「はい、寧ろ寝すぎてしまって、今は早く体を動かしたいくらいです」

「そう、良かった。

それでは、まず長老様に御礼を言いに行きましょうか。

大変お気にかけて下さったのよ」


それは会いに行く口実でもあるし、本音でもある。

実際礼はしなければならないし、できるだけ話をする機会が欲しい。

リリウムを出汁にするようで何だが……笑顔で頷いた彼女を連れて、時間通り長老を訪ねて行った。


「長老様、ありがとうございました。

私が寝付いている間、何かとお心を砕いて下さったと聞きました。

お陰でこの通り全快しました」


ぺこりとお辞儀をしたリリウムを前に、長老は「ふん。まあ掛けろ」と促す。


テーブルの上には既に茶会の用意がされており、きらきらと輝かんばかりだ。

そしてまた聞いてもいないのに矢継ぎ早で捲し立てる。


「ワシがたまたま飲みたくなったからそのついでだ!

その菓子も偶然珍しい果物が入ったからと、シェフが張り切って作っただけで貴様らのために用意したわけではない!!

ただの試作品なんじゃからな、勘違いするでないわ!」

「はい、ありがたくご相伴に預かります。

リリウム、頂きましょう」


段々こんな言い方にも慣れてきた。

こういう時は簡潔に、はっきりと感謝を伝えて後は受け流すのが一番手っ取り早く場を落ち着ける術であると察していた。

二人して軽く頭を下げて、長老が手を付けたのを確認してから食べ始める。

皿に盛られているのは鮮やかな色の果物を使ったタルトで、傍に添えられているのは同じ果物の飾り切りとジェラートだ。

濃い色をしたその果実は、市場でも見たことがある。

何でも海外からの輸入品だそうで、かなり温暖な地方でないと栽培できないと聞いた。

「アルクス有数の物流拠点とは聞いていましたが、本当に何でも手に入るのですね。

この、海外の果物類もそうですし、この位置で、鮮魚が市場で手に入るというのは驚きでした」

「分かっておるではないか!

無駄のない物流網の確立をと、道の整備やら何やら、それはもう苦心して……

い、いや、それはどうでもいい!!

……そんなワシの苦労を嘲笑うかのように、貴様らは愚にもつかぬ下らん代物を撒き散らし、この街を貶めんとしたのだ!

今思い出しても腹が煮える……!!」


言っている内に込み上げるものがあったのか、見る見る血が上る。

顔を、というか頭頂まで赤くし始めた。

リリウムが慌てたように口を挟む。


「と、とても美味しいです。

初めてショコラを味わったのは劇場でしたけれど、一緒に聞いた歌声も素晴らしくて、夢のようで」

「そ、そうね。

カエルムは劇場も厳かで歴史があって、有名よね。

確かあの時の方は、ベアトリス様と仰るとか。

長老様もご存知だったり……」


話題を逸らそうとしてのことだった。それなのに、それを聞くやいなや長老は何故かピシリと固まってしまった。

そのままがくがく、わなわなと震えだす。

沈静化させようと思ったのが、逆効果だったようだ。

どうして良いかも分からず、二人して固唾を呑むしかない。


だが、爆発することはなかった。

代わりに目を泳がせた長老は、ぼそっと呟く。


「貴様らはワシが恨めしくはないのか。

会ったこともないような同業のために不条理に嫌われているのだぞ」

「ですがそれは、故有ってのことでしょう。

私にどれほどの償いができるかは分かりませんが、できる限りのことはしたいと思っております」


ぐうっと喉を詰まらせるような音が鳴る。

そして「……もう良い。気分が悪い」と、本格的にそっぽを向かれてしまった。



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