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 ロウギア村付近のダンジョンを突破した俺たちは、地方を統括するギルドホールのマスターから熱烈な感謝を受けていた。



「これで、周辺のクエストが受けやすくなり冒険者も集まってくるでしょう。勇者様、本当にありがとうございました」



 どうやら、ダンジョンから湧き出す強力なモンスターの影響により激化した難易度のせいで、クエストが軒並みプラチナランク以上となり冒険者が足りていなかったらしい。



 冒険者とは、言わばその地域の活性に準ずる日雇い労働者だ。彼ら、もとい俺たちが依頼者の望みを叶えなければ、モンスター蔓延るこの世界ではロクに畑を耕すことも、道を繋げることも出来ない事態になりかねない。



 それが、やがて地域の貧困化に繋がるのだから、やはりクエストは重要な仕事なのだろう。もちろん、俺はこの冒険から生きて帰れたとしたら、また植木屋をやるだろうけど。



「悪魔との戦闘は初めてで戸惑いましたが、私、たくさん頑張りましたよ。シロウさん」

「よくやってくれた、モモコのスキルには頭が上がんねぇよ」

「えへへ、ありがとうございます」



 ニコニコしながら傷だらけのシロウさんの顔を見上げ、その少し前を後ろ歩きで歩いているモモコ。トゲトゲしていた分デレるとあっという間のロジックには納得がいくが、幾らなんでもその恋は無謀過ぎると俺は思った。



「シロウさんを攻略するのは無理っすよねぇ」



 アオヤも同じ意見のようだ。恋してる女の子の顔って華やか過ぎて、傍から見れば一発で分かってしまうのが面白い。とりあえず、密かに応援しておいてあげよう。



「頑張ってね」

「頑張れ、モモコ」



 アオヤと二人でサムズアップを向けたが、当の本人であるモモコは要領を得ない素っ頓狂な表情で首を傾げた。彼女が自分の恋心に気が付くのは、もう少し先の話みたいだ。



 ……あの日。



 結局、クロウは何もせずに帰っていった。あまり気にしていないのか、それとも責任を感じているのか。わざわざ俺たちの次の行き先を宣言したにも関わらず、シロウさんが旅の道中に奴らの話題を出すことは無かった。



 それよりも、問題はアオヤとモモコ、そして向こうの格闘士と聖女の関係だ。



 四人は、どうやら徹底抗戦の構えを決め込むようで。別れ際、次にカチ合ったならば容赦しないとガミガミ言い合っていた。両陣営とも、自分たちのボスをバカにされてトサカにきてしまっている。もしかすると、次は殺し合いになるかもしれない。



 そうなったら、俺とアカネがなんとかしなければなるまい。彼女は、何か言いたいことを我慢していたようだったし、クロウの行動に疑問を抱えている様子だったから協力してくれるとありがたいのだが。



 ……あまり、変な期待はしないようにしよう。



 ならば、もしも本当に殺し合いになった時、果たして俺は四人を制御しきれるだろうか。ダガーナイフから短弓へと形態を変化させた宝具を背中に背負い、俺はマントに顔を埋めて心配のため息を吐いた。



「ところで、キータさん」

「なに? アオヤ」

「どうして、キータさんは宝具を二つの形に変化させられるんすか? 僕のは槍にしかならないっすよ?」



 言いながら、アオヤは自分の槍と俺の弓を見比べた。



「あぁ、これは俺が器用貧乏だからだよ。みんなみたいに一つの武器を極める才能が無くて、色んな形が同じ練度で止まるから最大効率の武器が複数存在しちゃってるんだ」

「なるほど。なら、ある意味一番宝具を上手く使えてるのはキータさんなのかもしれないっすね」

「不本意だけど、嬉しい誤算なのは確かだよ」



 突出した技能が無いから、手札の数と閃きで戦うのが凡人のやり方だ。俺に出来るのは、俺よりも強いと油断してる相手の裏をかく方法を考えることしかないんだよ。



「でも、なんでそういう頭の良さってステータスに反映されないんすかね? この数値って、あまりにもスキルの効果に寄り過ぎてると思うっすよ」

「さぁ、俺にはよく分からないね」



 なんて会話した直後だった。



「……げっ」



 道の上に、クロウたちが待ち構えていた。そして、傷だらけのシロウさんを見るや否や、奴は満足そうな笑みでこう言った。



「ざまぁないな、シロウ」



 もう、本当に勘弁して欲しいと思った。悪い予感ばかりが的中する俺の直感も、クロウの素直になれなさ過ぎる性格も。



「よう、考えは纏まったか?」

「クク、ロクな回復スキルも無いまま悪魔と戦うからそうなるんだ。ヒーリング・エフェクトとポーションだけで悪魔を倒そうだなんて、そのザコ共とじゃ無謀過ぎる」



 答えになってないように聞こえるが、実はこれ以上ない回答だろう。もちろん、察して解説してやるほど俺は優しくないが。



「でも、倒せたぜ?」

「悪運でなんとかなっただけだろ。ボロボロになったお前がそれを証明している。魔界に入れば、お前たちは確実に殺されるな」

「そうでもねぇさ。グリントとの旅で俺たちに足りなかったのは、悪魔との戦闘への『慣れ』だった。こうして経験値を積めば、対応する日も遠くねぇよ」



 魔界には、魔王に反逆しようと目論むモンスターもいるという。その為、せっかく不死身を成立させるために作り出した魔王の分け身の悪魔を魔界に置いてしまえば、魔王は命を削られかねないと考えた。



 だから、魔王は地上にダンジョンを作り悪魔を隠した。奴にとっての誤算は、ただ一つ宝具の存在だけなのだ。



「なら、俺が悪魔を殺せば、お前は経験値を積めず魔王討伐にも手が届かなくなるワケだ」

「まぁ、そういうことだな」

「バカが。せいぜい、もぬけの殻になったダンジョンで無駄足でも踏むがいいさ」



 ……これは、どうなんだろう。



 確かに、俺たちにとっては害悪かもしれないが。別の視点、例えば世界から見た時にクロウの活動はどう映るだろう。きっと、俺たちと同様に世界を救っていることになるだろうし、ならば奴を止めることは魔王討伐という、世界平和を目指す俺たちの目的に矛盾してしまうんじゃないだろうか。



 難しい問題だ。答えが思いつかなかったから、俺はシロウさんの言葉を待つことにした。



「まぁ、確かにお前の実力なら宝具が無くても悪魔をブッ殺せるかもな。魔界に行かないんなら、先々のことなんて考えなくてもいいしよ」

「当然だろ」

「だから、好きにすりゃいいと思う。お前に目的が出来たのなら、俺も少し安心出来る。代替案を考えるのも勇者の努めさ」



 この期に及んで、クロウを心配なんてしないでくださいよ。



「ただ、お前の仲間たちは歯痒い思いをすると思うぞ」

「……なに?」



 あぁ、なるほど。



 そういう考え方ですか。



「クロウにしか出来ないことを、クロウだけでこなそうってんならよ。なんつーか、一人で冒険した方がいいと思うんだよな」

「何が言いたい!?」

「悪魔って、楽な相手じゃねぇぞ。前提として、生物ヒエラルキー的に人類は悪魔に数段劣ってる。モンスターですら手こずるんだから、当然の話だわな」



 珍しく、シロウさんはタバコに火をつけた。彼が本気で疲れたとき、一人で吸っていたのを何度か見たことがあった。



「多分、この世界でお前だけがあの化物と対等でいられてる。なら、その戦いに彼女たちを放り込んだ時、お前は何を背負うことになると思うよ?」

「普通に足手まといになるっすね」



 あぁ、せっかくシロウさんが迂遠な言葉で伝えようとしてたのに。



「ヒナたちが足手まといですって!?」

「聞き捨てならないわね」



 やっぱり、向こうも噛み付いてきてしまった。あの亜人のケモミミ少女はヒナというらしい。



「いちいちガチャガチャうるせぇっすよ。どうせ、あんたらは後ろで応援歌でも歌いながらラッパ吹くしか能のねぇ役立たずのハーレム要員なんすから、大人しく宿屋のベッドで股開いて待ってりゃいいじゃねぇんすか」



 本当に、アオヤの口の悪さはヤバ過ぎる。ひょっとして、口喧嘩なら悪魔とのタイマンでも勝っちゃうんじゃないだろうか。



「わたくしたちは娼婦なんかじゃない!! それ以上、わたくしたちを侮辱したらブチ殺すわよっ!?」

「大体、ヒナたちをハーレム要員だなんて言うなら、あんたたちだってそうじゃないですか! その女を囲ってる逆ハーレムじゃないですか!!」

「な、なんだテメー!! 私はそんなんじゃねぇよ!!」



 まぁ、図星といえば図星なのかな。モモコは、一本取られてしどろもどろになってしまった。

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