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……怪しい。
一応身を潜めて九条弟の様子を観察していたが、誰も居ないにも関わらず辺りを警戒している。いったい誰を探しているというのか。
「あの一瞬で……?どこに消えたんですかあの人……」
「……何の話だ」
「うっきゃああああああ!!!!」
そっと忍び寄り背後から声を掛けると、大袈裟過ぎる叫び声を上げて飛び上がった。
「何だその鳴き声は。猿にでもなったのか?」
「ち、違います!いきなり声を掛けられたからびっくりしただけですから!」
「あまりにもお前の行動が挙動不審だったからな。……誰を探していた?」
「さ、探してません!僕はずっと一人でした!!」
一人だったかどうかなんて聞いていないというのに。これでは先程まで自分以外に誰かが居たと暴露したようなものではないか。
「か、彼が出てくるって……先輩のことだったのか……危なかった……」
「何一人で喋ってるんだ」
「はいっ!なんでもないです!!」
もはやコイツは怪しさを隠す気が無いのだろうか。まるで怪しさが服を着て歩いているようなものだ。
ここまで怪しいと、まるでブラフなのではないかと疑ってしまうくらいに。
「……おい、お前」
もう、埒が明かない。
直樹に余計な接触はするなと釘を刺されたばかりだが、身元不明のこの男をこれ以上好きにさせておきたくなかった。
「な、何でしょう……?うわっ!」
逃げられないよう、壁際に追い詰めて問いただす。
「あ、あのあの!何ですかこれ!怒ってるんですか!?」
「ああ、いい加減頭が痛い程にな。……質問に答えろ。お前は誰だ?」
「ぼ、僕は九条皐月……」
「悪いが戸籍を調べさせて貰った。九条皐月なんて男は、この世に存在しなかった」
「…………っ!!」
……分かりやすく肩を震わせる。せめてもう少し取り繕うとか、そういうことが出来るだろうに。
「……あーあ。やっぱり、隠せないですよね。自分でもボロ出しまくりだって思ってましたし……」
そして九条皐月は一瞬の沈黙の後、自白を始める。
「お前、スパイには向いてないぞ。誰に利用されたかは知らないが」
「優しいですね。僕のことを心配してくれるなんて」
「別に心配している訳じゃない。さっさとお前の身元を明かせ」
「……ごめんなさい。それは出来ないんです。今はまだ……」
「お前なあ……」
ここまで見抜かれているというのにまだ隠すのか。
逆に呆れてしまい、大きくため息をつこうとした、その時だった。




