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「別に着替えなくてもそのまま入ってけば良いのに」
浴室から出て行った九条弟の後ろ姿を見送りながら、直樹がぼそりと呟く。
どうやら風呂掃除の後に一番風呂に入れるのが褒美らしいが、奴は断っていた。
「……まあ、身元不明の奴だからな。無防備になりたくないんだろ」
「無防備なのはこっちも同じなんだけど。あー!汚れたからさっさと綺麗にしたい!」
それに関しては同感だ。一刻も早く汗を流してしまいたい。
「なあなあ!せっかくだから恋バナでもしようぜ!」
……シャワーだけ浴びて出るつもりだったのに。どうして俺はコイツらと一緒に湯船に浸かっているのだろう。
「恋バナって……メンツ間違えてない?零士先輩と鮫島先輩は付き合ってるし、残りは僕とこの人だよ?盛り上がる要素が無いんだけど」
「えー!将吾ちゃんは浮いた話とかないのかよー?」
「無い。恋愛とかどーでもいいし」
確かに、コイツのそういう話は聞いたこともない。興味も無いが。
「……てか、僕なんかよりアンタでしょ」
「……は?」
何故こっちに話を振る。……そう声を出す前に、やたらキラキラした目をした犬飼と目が合う。これはまずい。
「なになに!?浮いた話あんの!?やっぱり宵子ちゃん!?カレカノのフリしてるうちにそーゆー感情になっちまった!?それとも全然別の女の子とか!?もしくは男!?」
……マシンガントークが過ぎる。思わず頭を抱えるが、犬飼の口はお構い無しだった。
「俺としてはあの男の子!皐月ちゃんだっけ!?あの子も怪しいと思ってるんだけどな!」
ああ……俺もアイツは怪しいと思っているさ。お前とは全く別の意味で、だが。
直樹に視線を移すとやれやれ……と言いたげに首を振られた。元はと言えばお前が原因なんだが。
「……残念だがお前の期待しているような話は無い」
吐き捨てるようにそう言って、立ち上がる。
「え?もう上がっちゃうのかよ」
「零士!お前のせいだろうが!……悪いな、常磐」
「……いや、単に逆上せそうなだけだ。先に失礼する」
犬飼の言葉で不愉快になったと言えばそうだが、奴のそういった発言は今に始まったことではない。
……それよりも外で待っている九条弟だ。あまり関わらない方が良いとはいえ、わざわざ一人になりたがるとは……何か良からぬことを考えているかもしれないし、見張ればボロを出すかもしれない。




