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「とりあえず、もうアイツとは接触しない方が良いかもしれない」
「いや、それは難しい。アイツ、九条の部屋で寝泊まりしているんだ」
「不味いな、どうしよう。ボディーガードに黎さんをって思ったけど、今源氏と山田先輩と一緒に仕事してて不在なんだよね……」
三人ともよろず部の部員ではあるが、今は "仕事" とやらで忙しいらしい。どんな仕事かは知らないが。
「まあ、それでもできるだけ二人きりにはならない方がいいと思う。とりあえず今日は……」
「……あっ!やっと見つけた!!」
直樹が言い終わる前に馬鹿でかい声が割り込んで来る。この声は……犬飼だ。
「すっげー探したんだぞ!まさか二人一緒に居るとは思わなかったけど!!」
「零士先輩、悪いけど僕ら」
「部活サボるなんて許さないぞ!ただでさえ今日は源ちゃん達三人が仕事の上に、こさきっちとアリちゃんまで居ないんだからな!!」
「……寺本は?」
「アキさんも不在!マジで大変なんだからな!」
成程。神凪古、楪有翔、楪光源氏、山田景國、寺本明臣、神々廻黎一郎が不在、と。
つまり現在居る部員は俺と直樹将吾、犬飼零士、鮫島大河のみということになる。……正確に言うともう一人部員がいるが、恐らく来られないだろう。
「で、四人で何をしろって?」
「四人?宵子ちゃんの弟の皐月くんにも付き合って貰うぜ!」
「よ、よろしくお願いします……!僕も精一杯頑張りますので……!」
「……、嘘でしょ……」
絶句する直樹。それもそうだ。先程、九条皐月とはなるべく関わらないように決めたばかりだというのに。
九条皐月は信用出来ないと他の部員にも告げるべきなのだろうが、流石に本人を前にして言う訳にもいかない。
「……どうする?」
「まあ、二人になる訳でもない。逆に怪しい動きがないからこちらから見張ってやればいい」
「ん、そうだね……」
直樹は不服そうだったが決まってしまったものは仕方ない。というかこんな状況で部活動などしたくもなかったのだが、逃がしては貰えないようだ。
「何二人でコソコソ話してんだよ?」
「……何でもないけど?というか、部活って何をすればいいの?今回はどんな依頼?」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれました!!」
「……銭湯の掃除だ」
無駄に勿体ぶる犬飼をスルーして、後からやってきた鮫島が口を挟んできた。
「あーっ!ちょっとたーくん!せっかく溜めたのに!!」
「その呼び名はやめろ!!テメェがなかなか来ねえからサボったんじゃねえかって迎えに来てやったんだろうが!!」
どうやら本来は現地集合だったらしいが伝言が上手くいっておらず、他の部員がなかなか来なかったので鮫島はわざわざ迎えに来たらしい。
伝言が上手くいかなかった理由は……まあ、間違いなく犬飼だろう。
「えー?ちゃんとグループMINEで送ったのに……あ、」
犬飼の顔が青ざめる。やはりコイツが原因のようだ。
「いやー、ごめんごめん。大河の個別MINEで送ってたみたいだ」
「テメェ!!」
「はいはい痴話喧嘩はそこまでにして。掃除行くんでしょ?さっさと行こうよ」
呆れたように直樹が喧嘩を止め、とにかく俺達は銭湯に急ぐことにした。




