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「有翔、本題」
「あっ、そうだった!ごめんね!ぼくたちが今出てきたのにはワケがあってね!」
楪先輩はふふんと笑うと、一枚の紙をあたしの前に差し出してきた。
何これ。契約書……?
「よいこちゃん、助けて欲しいって依頼書出してきたよね?だからぼくらはそれを叶えようと思います!」
「えっ、えっ?」
突然のことに頭がついて行けない。あたしを助けてくれるの?……どうやって?
「どうやって助けてくれるのって顔してるよね!ほんとはその作戦を練る為にかまおくんに上手いことよいこちゃんのほんとの依頼を聞き出すように頼んでたんだけどー……」
「コイツのコミュ力が最悪過ぎて無駄に傷つけることになってしまった。部長の判断ミスだ。悪いことをしたな」
「……だから俺は嫌だって言ったんだが」
「でもまあ、よいこちゃんの悩みは何となく分かっちゃったし!……家庭環境のことだよね?」
そういえばさっき、思いっきり常磐先輩に吐き出してしまった気がする。しっかり聞かれていたということか。
「そんで、一番手っ取り早い方法がよいこちゃん改造計画なんだよね!」
「か、改造計画!?」
な、何なのだろう。その物騒な計画は。まさかあたしの記憶を消して人格ごと変えてしまうみたいなやつってこと……!?
「アホか。そんな計画が実現してたまるかよ」
「そ、そうですよね……」
あたしの考えは即座に常磐先輩に否定される。……というか今の、あたし口に出してなかったよね?心が読まれた?怖い。
「まあ簡単に言うとよいこちゃんをお洒落させて可愛くなってもらおうって計画!今よいこちゃんが悩んでること、これで割と解決しちゃうと思うんだよね!」
「その鬱陶しい人格そのものは自分で変わってもらうしかない訳だが」
「おい新人。余計なこと言うな」
「まあまあ!可愛くなれば心も豊かになるっていうし!……どう?」
あたしだって、お洒落が出来るものならしてみたい。だけどそれを買うお金が無い。だから困ってる。
「あの、お金とか」
「お前、鳥頭か?契約書を読め」
「こらー!女の子にそんなこと言っちゃダメ!えっとね、お洒落にかかった金額全てこっちで負担する代わりに、よろず部の仕事をちょっと手伝って欲しいの!ハルくん……会長は入部して欲しいみたいだけど、今の部活を辞めて貰うのも悪いからね」
……これは、あたしにとってはかなりの好条件な気がする。よろず部に深く関わることで、部員の情報を仕入れることも出来るだろうし……。
「契約書読んで大丈夫そうだったらサインしてね!」
あたしは契約書の隅から隅まで目を通した。……大丈夫。おかしなことは書かれていない……筈。恐る恐る契約書にサインすると、楪先輩はにっこりと笑った。
「これからよろしくね、よいこちゃん!」
「は、はい。よろしくお願いします……!」
正直不安しかないが、サインしてしまった以上は仕方ない。
こうして、《よいこちゃん改造計画》がスタートしたのである……。
第二話に続く……