9-10
……いや、そもそも、だ。
「何故部外者であるお前が、そこまで詳しいんだ」
一応奉日本家の関係者である俺ですら、奉日本沙雪とその娘の存在は知らなかったというのに。どうして部外者のコイツがここまで詳しいのか、疑問に思わない筈が無かった。
「せやね。うちが何でここまで詳しいか……普通やったらおかしい思うわね」
そう言うと、水鏡は残っていた緑茶を一気に飲み干す。
「……ええわ、教えたる。うちは……」
──────びくん。
その瞬間、水鏡の身体が大きく痙攣する。
「……!?おい、どうした……!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
「う、ふふ……あかんねえ……ほんま、タイミング悪うて、あかんわあ……」
くすくすと気味悪く笑いながらもぶるぶると、水鏡の身体は痙攣している。
「堪忍ね……うち、そろそろ戻らんとあかんのよ……」
ぶるぶると身体を震わせたまま、水鏡は立ち上がる。そのまま帰るつもりだろうか?この状態で?
「時間切れや……残念やねえ……次おうた時、ちゃんと説明するさかい……堪忍ねえ……」
「……待て!!」
制止する間もなく、水鏡はその場から去る。すぐに後を追って喫茶店を出たが……奴の姿はもう何処にも無かった。
「……先輩!」
後から追ってきた九条弟が肩を掴んでくる。
「もう!二人とも代金払わずに出て行くのやめてください!」
「……ああ、悪い」
そういえばアイツも払ってないな。まあ、あの状態なら仕方ないとも言えるが。今度会ったら請求して……
「……はあ?」
とりあえずアイツと自分の分の代金を九条弟に返そうと財布を開けたら……何故か一円玉が大量に入っていた。気味が悪い。
まさかアイツが……?と思ったが、それなら百円玉で払え。
「すごい数の一円玉ですね……」
「見るな。……多分、奴だ」
「ええっ、何で一円玉?」
こんなの嫌がらせ以外の何物でもないだろ。気づいて欲しいにしてもせめて十円玉くらいにしておけ。
「……訳の分からない奴だったな」
「そう、ですね……」
先輩の欲しがっていたサヨという女性の情報は……あまり分からなかったけど、代わりに思わぬ情報が手に入った。これは幸臣への交渉材料になるかもしれない。……こちらも消されそうな、諸刃の剣になるかもしれないけれど。
「そろそろ、帰りましょうか」
「……ああ、そうだな」
大丈夫です、先輩。
何があっても、僕が絶対に守ってみせます。
……失敗する訳にはいかない。何度も自分の心に言い聞かせ、先輩には分からないように僕は拳をギュッと握りしめた……。
第十話に続く……




