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……連れてこられたのは客の少ない喫茶店だった。いや、平日のこの時間だ。混んでいる方が珍しいかもしれない。
「僕ら、浮いてませんか……?」
「ふふ、皐月さんたら。自分が思てるよりも周りは自分のこと気にしてへんもんなんよ?」
それに関してはその通りだと思う。というか、お前が無駄に周りを見回すことによって余計に挙動不審に見えて悪目立ちしているぞ、気づけ。
「……さて、奉日本沙雪とその娘のことやっけ」
三人で適当に飲み物を頼み、水鏡が頼んだ緑茶をひとくち啜って話を始める。
「まあ、うちもそんな詳しい訳やあらへんけど……」
「前置きは良い。知っていることを全て話せ」
「……はいはい。奉日本沙雪とその娘……沙宵のことなんやけど」
どうやら "沙宵" は "さよ" と読むらしい。夢に出てきた名前とも一致するが……。
「沙雪は、奉日本ではほんまに優秀な子やった。女であることを何度も悔いられたくらいや」
奉日本は、男尊女卑が激しい。奉日本純子という例外がいるとはいえ、女は跡継ぎになれないどころか奉日本の姓を名乗ることすら出来ないのだ。
「弟である幸臣より優秀やったから、何度もお前が男なら良かったのにって言われ続けたそうや」
「……まあ、あの奉日本家なら有り得る話だな」
「それだけやなくて、沙雪は父親である泰臣から……寵愛を受け取ったんや」
「それは……贔屓されていた、ということか?」
俺の言葉に、水鏡は首を横に振る。
「……贔屓なんて、生易しいもんやない。泰臣の愛は歪んどった。あいつは沙雪を……実の娘を……女として見てたんや……」
……奉日本家なら、そういう奴がいてもおかしくは無いとは思っていたが……実際に耳にすると吐き気がする。
「沙雪には愛する男性がいた。せやけど泰臣は自分の欲の為に、二人を引き離した」
「……下衆だな」
「せや。あんな男、下衆の極みや。それだけやなくて沙雪は……あんな下衆の子供まで身篭ってしまったんやから……」
「……!そんな、酷いです……」
流石に聞いていられなくなったのか、九条弟が口を挟む。
「……きついなら席を外せ。お前には耐えられる話じゃないだろ」
「大丈夫です。ついてきた以上、常磐先輩の足を引っ張るような真似はしたくありませんから……」
「ふーん……皐月さん、健気でええ子なんやねえ」
「……続けてください。邪魔をして、すみません」
「……ふう」
水鏡は緑茶をまたひとくち啜って、息を吐く。よくあんな話の後で何かを口に出来るものだと感心した。俺と九条弟はひとくちも口を付けられずに、すっかり氷が溶けてしまったというのに。




