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「……だとしても、珍しいな。女なのに奉日本を名乗れるなんて」
「え?それって珍しいことなんですか?」
「ああ、奉日本家は男尊女卑が激しい一族だ。奉日本家に生まれた女は本来なら奉日本の苗字を名乗ることは許されないんだが、奉日本純子のように特例もある」
「へえ、どんな時に特例になるんですか?」
「基準はよく分からないし知りたくもないが、奉日本家に貢献した人物とか何とか……」
もう一度家系図を開く。奉日本を名乗れる程の女、沙宵。彼女が家系のどの位置に存在するか把握しておきたかったからだ。
「……あっ、沙宵さんって晴臣様とはいとこ関係なんですね」
九条弟が指を指す。いとこ関係?だとしたら何故晴臣から沙宵の話が全く出ない?奉日本を名乗れるくらいの人物なのに?
そもそも、何故本家に奉日本沙宵らしき女が存在しないのだろうか。聞いたこともないぞ、そんな女。
……分からない。晴臣といとこ関係……つまり奉日本沙宵は幸臣の兄弟の娘だということ。しかし、幸臣には舞子という妹しか居なかった筈で、舞子に子供がいるなんて話は聞いたことも無かったが……。
「詳しいんですね、奉日本家について」
「……本音としては、知りたくもない一族だが」
奉日本沙宵から家系図を上に辿っていくと…… "奉日本沙雪" 。……どうやら幸臣には沙雪という姉がいるらしく、その娘が沙宵のようだ。
だが沙雪なんて女の話は聞いたことがない。
"沙雪" と "沙宵" 。
二人とも女性でありながら奉日本の姓を名乗ることを許された母娘。
それほどまでの存在であるにも関わらず、その姿も、彼女らの話すらも聞いたことがない。不自然過ぎる。
これではまるで、二人だけこの世界から消されてしまったような────……
……そして、この時の俺はあまりにも油断していた。
敵の本拠地にいるにも関わらず、全く周囲に気を配らず調べ物に夢中になってしまっていた。それに、九条弟だってまだ味方とは確定していない。それなのに何故か信用してしまっていた。
だからこそ背後から忍び寄る気配に、俺は全く気づけなかった。




