9-3
……その後、何度か隠し通路を使い、ようやく資料室のような部屋に辿り着いた。
「うわあ……すっごい数の本ですねえ……」
ひとつひとつ見ていてはキリが無い。一番分かりやすいのは家系図だろうか。家系図らしき資料が無いか見ていくと……あった。
「家系図ですか?」
「ああ、この中にサヨに該当する名前が存在していればいいんだが……」
「ふむふむ」
二人で家系図の端から順に目を通していくが、そもそも家系図に載っているのだろうか。
奉日本家という一族は男尊女卑が激しい。よっぽど優れた女性以外は奉日本すら名乗らせて貰えなく、家系図にも名前を残して貰えないのだ。サヨが奉日本家の関係者だったとして、家系図に残されている可能性は極めて低────
「あっ!」
急に声を上げられ、思わずビクリと身体が跳ねる。どうやら九条弟が出した声らしいが俺達は今不法侵入中なのだ。バレないように声の大きさには気をつけて貰いたい。
「どうした?」
「見つけました、この方では?」
九条弟が指さした先を目で追うと……そこには確かに "奉日本沙宵" の文字があった。沙宵はサヨイとでも読むのだろうか。確かに名前にサヨは含んでいるが、問題はそこじゃない。
「違う。コイツじゃ年齢が合わない」
恐らく夢に出てくるサヨという女は俺が屋敷に居た時に出会っているのだと思う(そこら辺も実際はハッキリしないのだが……)
まあそれを前提として考えると奉日本沙宵では年齢が合わないのだ。家系図に記載されている生年月日から計算して現在の彼女の年齢は今年17歳。俺よりも年下になる。
「……?でも、小さい頃に会おうと思えば会えますよね?だって、1歳年下なだけでしょう?」
「違う。会えないんだ。俺は……」
……そこまで言って、口を噤む。コイツには、自分の出生を話す必要などない。敵かもしれない相手なのだから。
「……えっと、どうしたんですか?」
暫く無言でいたせいか、向こうから口を挟んでくる。
「いや……何でもない。そもそも、何で夢に出ただけの女にここまで執着しなくちゃならないんだ。馬鹿らしい」
わざとらしく家系図を閉じ、溜息をつく。
だが、言ってみれば確かにその通りだ。サヨは、夢に出てくるだけの女で現実にも存在しているとは言い切れない。そんな女の為にわざわざ奉日本家に不法侵入までして、馬鹿じゃないのか。考えれば考える程自分が情けなくなってくる。どうしてたかが夢にここまで執着してしまったのだろうか。




