9-1
「さようなら、鎌実さん……」
「……っ、サヨ!!」
……また、この夢。最近、サヨという女が目の前で自死する夢ばかり見る。もはや悪夢だ。
しかも今回は声まで出して、ご丁寧に手まで伸ばして。
「いい加減にしてくれ……」
そもそも俺はサヨなどという女は知らない。少し前までは外に出ることすら出来なかった身体なのだ。その理由は割愛するが。
なので俺が女と接する機会があるとするならば……母親か、幼少期に屋敷にいた女中しか有り得ないのだが、母親の名前はサヨでは無いしその中にサヨという名の女中は居なかったように思える。忘れていると言われればそれまでだが。
しかし、自死する場面を何度も夢に見るような女だ。相当自分にとって特別な存在に違いないが、そんな記憶は存在しない。
せめて夢の中に出てくるサヨとやらの顔が見られれば良いのだが、顔がはっきりしない。
「……調べてみるか」
所詮夢だ。気にするだけ無駄なのかもしれないがこうも何度も夢に現れてくるのが気に食わない。
それどころか昨日は眠っていない時にも口が勝手に動き、サヨと呼んだのだ。ひょっとしたら、俺が覚えていない記憶があるのかもしれないし、このまま放置しておくのは気味が悪い。
そうと決まれば早速行動を開始したい。学校は休むことに決定した。まず何処から手をつけるか……やはり、奉日本の資料だろうか。
理由は、自分も奉日本家の血を引いているからだ。想像するだけでもおぞましいが。……とにかく自分が奉日本家の血縁者であり、幼い頃から外に出られなかった自分が関わった可能性のある人物といえば、まずは奉日本家の関係者から調べるのが筋だろう。
ぴんぽーん♪
「チッ……このタイミングで……」
呑気なチャイム音に腹を立てる。無視してやりたいが、どうせ無意味だろう。多分、隣のアイツだ。
「おはようございます、常磐先輩。……あれ、制服じゃないんですね」
「……ああ、調べ物がある」
「何を調べるんですか?僕も手伝いましょうか?」
「必要ない」
「ええ……一緒に行きましょうよ。僕も学校サボりたいんです」
コイツの素性が分からない以上、こちらの動きを悟らせたくはない……が。
「というかあの、出来れば一緒にいて頂けると助かるんですが……」
「はあ……また虫か?」
「はい……一応バルサン使ったんで帰る頃には大丈夫だと思うんですが……その、死骸の処理をして頂きたいなと……」
「それなら普通に学校に行けば良いだろう。終わる頃に処理してやるから」
「あうう……でも、でも……」
情けなく俯くコイツの姿を見ていると、何となく九条と被って面倒を見てやりたくなってしまうのも事実。……いや、別に絆されている訳ではないが。
「……仕方ないな。邪魔だけはするなよ」
「……!ありがとうございます!絶対お役に立ちますから!」
……何となく空回りする予感しかしないので何もしないで貰いたい。




