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「ええええええっ!?!?」
自分の部屋に戻った瞬間、丁度隣の……アイツの部屋から耳を疑うような叫び声が。……いや、ここ防音はしっかりしている筈じゃなかったのか奉日本。それともどれだけでかい声で叫んだんだあの男は。
そんな声で叫ぶ程のことがあったのだろうか。変質者か?この高層階に?助けてやる義理など無いが、九条の部屋を荒らされるのも何となく気に食わない。
……意を決してチャイムを鳴らす。ドタドタと喧しい足音が聞こえたかと思うと、激しく扉が開け放たれた。
「うわーん!!先輩助けてえ!!」
その瞬間こちらに飛びついてきた九条弟を……反射的にかわす。いや、だって、つい。
「ふぼぉ!!」
俺が避けたせいで九条弟は共同廊下の壁に激しく顔面をぶつけてしまった訳だが知ったこっちゃない。
「な、なんで避けるんですか!!」
「猪でも飛びかかって来たのかと思って、つい」
「高層マンションに猪なんて出ません!」
「知っている。で、何があった」
「そ、そうです!その、助けてください!!」
何があった、とこちらは聞いているんだが。
それよりも思いっきり鼻血が出ているんだがそれは気にしないのかこの男は。そそっかしいというか何というか。……何となく、姉を彷彿とさせる。やはり、本当に姉弟……なのだろうか。いや、これもこちらを信用させる作戦だったとしたら……
「早く!早く来てください!!」
来てくださいと言う割に俺の後ろに隠れ、グイグイと背中を押してくる。あまりにも鬱陶しいので、思わず声を荒らげた。
「何だ!いきなり騒ぎ出したかと思えばこちらに飛びかかってきた上に何も言わず部屋に押し込んで!お前は何がしたい!」
……そこまで言ったところではっとする。
まさか、コイツ……それが目的じゃないだろうな。だが何の為に?違う、そんなこと考えなくても分かるだろう。
奉日本晴臣の弟である寺本明臣や曾祖母の奉日本純子ですら奉日本晴臣の失踪事件について何も把握していないのだ。
アイツのことだから家族にすら何も言わずに動くことも考えられるが……それよりも簡単に思いつくのがこれはアイツですらも予想外で、今現在一番の権力者である奉日本家現当主の奉日本幸臣の仕業であること。
つまり、アイツと九条は……本当に消されてしまったという可能性。
そうなると突然現れた九条の弟を名乗るこの九条皐月という男の存在がきな臭くなる。何故わざわざ俺に接触してきた?
……思考を停止するな。そんなの、考えなくても分かるじゃないか。
現当主は、俺すらも邪魔な存在だと思っている。認めたくない事実だが俺が生かされているのは奉日本晴臣の温情なのだ。だったらその奉日本晴臣が居なくなれば、俺を生かしておく必要など無い訳で。
だから次は……俺が。
「……ふ、ざけるな。何で。ここまで上手くやってきたのに……」
……?
「これで八万四千回目……悪いな、サヨ。俺はまた間違えたみたいだ……」
何だ、今の言葉は。知らない。俺の意思じゃない。だが勝手に口から漏れていた。
そういえば最近、自分は意識していないのに勝手に口や身体が動くような、不思議な感覚に陥ったことがあった。……嘘だろ。よりによって、このタイミングで……
「いやあああーっ!!出たーーーー!!!!」




