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「何か悩み事ですか、常磐さん?」
狙っていたのか九条弟が消えたタイミングで寺本が顔を出す。
「……いつから見ていた」
「失礼ですね。別に覗き見してた訳じゃないですよ?ここ、純子おばあちゃまが住んでるマンションなので遊びに来てただけです」
「へえ、このタイミングで」
あからさまに怪しんでいるせいだろうか降参と言わんばかりに寺本は大袈裟を肩を落とす。
「はいはい遊びに来てたってのは嘘ですよ。でもおばあちゃまに会いに来てたのは本当です」
「奉日本純子……奉日本家五代目当主の伴侶だった女か」
「流石、よく調べてますね。おばあちゃまはもう奉日本家から籍を抜いたので今は旧姓の氷室を名乗ってますけど」
それでも未だにそれなりの権力を持つ女であるのは間違いない。……何故、彼女の元へ?だいたい見当はついているが。
「……そりゃ、九条皐月さんのことに決まってます」
「そうだろうな。で、何か成果は得られたのか」
「残念ながら何にも、です。今回のこと、おばあちゃまは全く関与してないみたいですね」
……流石に奉日本家を抜けた身、全てのことを把握している訳ではないようだ。
「まあ、おばあちゃまでも把握していない人物ってなると……やっぱりあの男、きな臭いですよねえ」
そういうことになる、か。そういう意味では全くもって何の情報も得られなかった訳ではないらしい。
「……まあ、私の方でもハルと九条さんは探してみますから。常磐さんはとにかく普通に過ごしてください。……あなた、疑うと思いっきり顔に出ちゃってるので」
つまり態度に出さず、普通に九条弟と接しろと。
「得体の知れない輩と仲良くお友達ごっこをしろとでも?随分な無茶ぶりだな。……あぁ、そういう馴れ合い騙し合い得意だもんな、お前たちは。真似をしろとでも言うのならやってやるよ、お前の片割れの首の皮一枚で考えてやる」
「まあ……確かに。常磐さんがいきなり今まで態度悪くてごめんね!仲良くしようね!とか言ってきたら鳥肌立ちますもん。後、ハルの首の皮は差し上げません!残念でした!」
……確かにその通りなのだが、他人に言われると腹が立つ。
「じゃあそのままで良いので普段通りに過ごしてください。不自然にならない感じで大丈夫です」
「……分かった」
実質、戦力外通告をされたようなものだ。こっちで全て何とかするからお前は何も気付かないふりをして過ごしていろ……と、そう言いたいのだ、この男は。
奉日本の血縁者なんかに従ってやるのは癪だが、従うしかないらしい。せめてもの抵抗に思いっきり舌打ちをしてやり、部屋の扉を閉めた。




