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……それから何事もなく草むしりを終わらせ、帰路についていた。
「……お前、何故俺についてくる」
「ついてきてる訳じゃないですよ。晴臣様に言われた僕の家がこっちなんです」
奉日本め。まさか同じマンションに住まわせる気じゃないだろうな。
……しかし、コイツが奉日本に指定された家は同じマンションどころの話ではなかった。
「おい、そこは九条の部屋だが?」
コイツはエレベーターで俺と同じ階で降り、何事も無かったかのように鍵を取り出して九条の部屋である1304号室の部屋を開けようとしたのだ。
「はい。晴臣様はそのままこの部屋に住めと」
奉日本め……。幾ら血縁者とはいえ、姉の部屋をそのまま弟に使わせるのは如何なものか。弟曰く、コイツも九条と会ったことはないらしいじゃないか。だったら九条の方も弟の存在は知らないだろう。ならほぼ他人に自分の部屋を踏み荒らされるようなものだろう。
……いや、奉日本はそこまで不躾なやつではない。それにコイツの正体は奉日本家の現当主の手先かもしれないのだ。現当主だったなら「もう使わない部屋に適当に放り込んでおけばいい」くらい考えそうだ。
九条皐月……やはりきな臭いな。
「……そうかよ。丁重に扱え。 "九条が戻って来た時に困らないように" な」
もう使わない部屋など勝手に決めつけるな。アイツは戻って来る。
「そう、ですね。姉が帰って来るまでの間ですから」
少し吃ったか?やはり、やましいことがあるのだろうか。そうだとしたら余程分かりやすい男ということになるが。……手先としてはあまりにも不自然だ。わざとだろうか。
「……あの、もういいですか」
「……ああ、」
頷くと、九条弟はさっさと部屋に入っていってしまった。
……アイツ、今日からここに引っ越してきた割には何も荷物を持っていなかったような。
"このままここに住めと言われた" ……つまり、そのまま九条の置いていった物を使うつもりらしい。面の皮が厚いにも程がある。
奴が九条家の隠し子なのが本当であろうが嘘であろうが、不愉快極まりなかった。




