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「……まだ、確定した訳じゃないが」
そうだ。まだ確定じゃない。
これは現当主と次期当主が密かに対立しているという事実から俺が勝手に推測しただけに過ぎない。
九条の弟を名乗るあの男は本当に九条の弟であり、本当に奉日本の遣いかもしれない。そもそも、黒幕が現当主である奉日本幸臣であるというのも、俺のただの憶測だ。
……だが、そう片付けるにしてはあの男はあまりにも怪し過ぎる。
奉日本はこんな行き当たりばったりな計画を立てるような男ではないし、それならば失踪する前に直接「近々消えるからそちらに自分の代わりの遣いを寄越す」くらい言ってくるような奴だ。
それとも、それが出来ないくらい切羽詰まった状況なのだろうか。だとしたら、それこそ九条のことが心配でならない。
……どうする?俺は何を信じればいい……?
「……まあ、用心するに越したことはないさ。あまり考え過ぎるな。俺はお前の判断に従うよ」
思考のし過ぎで情報がグチャグチャになり、自分でも気づかないうちに頭を掻き毟っていたらしい。神凪に声をかけられ、ようやく我に返る。
「……そうだな。まだ確定では無いが、アイツには気をつけて行動してくれ」
「うん!わかった!」
「じゃあそういうことで。……常磐、そろそろ戻らないとまずいんじゃないか?」
三人共に長時間姿を消したらさすがに怪しまれるか。あからさまに避けられると向こうも対応を考えてくるかもしれない。こちらは向こうを警戒するが、向こうにこちらを警戒されるのは避けたい。
「全員で戻ると怪しまれるだろう。ここは時間をずらして戻った方が良いな」
「お前は有翔を引っ張ってトイレに行ったってことになってるんだから逆に別々に戻った方が違和感じゃないか?だから、俺だけ後で戻ることにするよ」
「おっけー!サキ、また後でね!行こ、かまおくん!」
「……随分長いトイレでしたね。神凪先輩もいつの間にか居なくなってますし」
どうやら怪しまれているようだ。確かにトイレにしては長過ぎたかもしれない。
「そんなに、二人きりになりたかったんですか。楪先輩には、神凪先輩がいるのに」
「……は?」
まさか、そういう風に誤解されているとは思わなかった。……恋愛など全く興味ありませんけどみたいなツラをしている癖に。
「違うよぉ!かまおくんが便秘気味だったから」
「おいコラ」
誤魔化すなら俺に責任を押し付けるな。せめて自分のせいだと言え。
「……まあいいですけど。ところで神凪先輩は見ませんでしたか?急に消えたんで」
「知るか。大方どっかでサボってるんだろう」
「サキはサボりなんてしないもん!……トイレじゃないかな?」
「トイレならどうして楪先輩と会ってないんですか」
……楪有翔、お前はもう喋るな。ボロを出しかねない。
アイコンタクトでそう伝えるが、奴は何故かドヤ顔をこちらに向けてきた。多分、伝わっていないだろう。
「悪い。トイレ……じゃなくて、先生に呼ばれてな」
そうこうしているうちに神凪が戻って来たが、コイツ……今絶対にトイレって言いかけただろ。言い直しただけまたマシだがお前の知能は楪並か。もうコイツらは黙ってて欲しい。




