8-4
「……ああ、九条宵子は無事か?何処にいるかお前は知っているのか?」
「そもそも、どうしてそんなに姉さんのことを気にするんですか?あなたは姉さんとどんな関係なんですか?」
まさか、そんなことを聞かれるとは思っていなかった。コイツは奉日本から何も聞かされていないのか?
……いや、待て。コイツが本当に奉日本の遣いだったとしたら……俺と九条の関係性を知らないなんて有り得るのだろうか。
俺はコイツが捏造不可能な奉日本の封筒を持っていたので奉日本の遣いだと認識していたが……よく考えればあの封筒を使えるのはアイツだけではない。現当主である奉日本幸臣にだって、簡単に使えてしまうではないか。
現当主と次期当主は親子でありながら関係は不仲だと聞いている。もし、コイツが現当主の遣いだとしたら……。そして奉日本が失踪した理由が父親にあったとしたら……コイツに情報が漏れるのはまずいのではないか。
それなら何故九条も姿をくらました?
アイツが狙われるような真似をしたというのは……あまり考えられない。だとすると、単に奉日本のいざこざに巻き込まれてしまっただけの可能性がある。……奉日本め、お前の問題に一般人を巻き込むな。
……色々思考してみたが、とにかくコイツに情報を与えてしまうのはまずいかもしれない。ならば、あの "設定" を使わせて貰うこととしよう。
「……何だ、奉日本から何も聞いていないのか?俺とアイツは恋仲だが」
「そうだったんですか?……す、すみません、俺は何も聞いていなくて……」
……今、一瞬動揺が見えた。やはり、コイツを信用するのは危ういということか……。
「えっ?違うでしょー!だってそれって設定……むぐ!」
「どうした、トイレか。仕方ない、俺もついて行くとしよう」
余計なことを言うな、楪有翔!
言い終える前に口を塞ぎ、校舎裏へと拉致する。
「……ぷはっ!ちょっともう!いきなり何するのさー!」
「お前の頭の中は髪の色と同じぐらいちゃらんぽらんなのかこの馬鹿猫が、知性をどこかに置いてきたのか?」
校舎裏で楪を解放する。……少し、いやだいぶ焦ったせいか語気が強くなってしまったが今はそんなことに構っていられない。
「恋人の振りしてるってバラそうとしたこと?だってあの子、ハルくんの知り合いでしょ?だったらほんとのこと教えても問題ないと思うよ?」
「ほう。ならお前はどうしてアイツが奉日本の知り合いだと思った?」
「それは奉日本家の封筒を使ってたから……アレは簡単に偽造出来るものじゃないし」
「ああ、確かに封筒自体は本物だろうな。だが、それを奉日本晴臣が使ったという証拠は何処にも無い。筆跡は確かに本人のものだと思ったが……父親ならば簡単に偽装出来るだろうよ」
そこまで説明して、ようやく目の前の馬鹿はなるほど!と頷いた。……はあ、馬鹿の相手は疲れる。
「……成程な。つまり、得体の知れないアイツにはなるべくこちらの情報は与えない方がいいと」
何処から聞いていたのか神凪が現れる。……おい、アイツを一人にしたのか。
「安心しろ。つけられてはいない」
「当然だ。じゃないと何の為にコイツをここまで連れて来たのか」
「ねえねえ!皐月くんはハルくんのお父さんの手先かもしれないって話なんだよね?」
「だからアイツに情報を渡したくないと説明したつもりだが?」
コイツはあれだけ丁寧に説明してやったというのにまだ理解出来ていないというのか。
「えっと、えっとね……」
「何だ。言いたいことがあるならはっきり言え」
「……えっと……それってつまり、ハルくんのお父さんが悪者ってことなの?」




