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「……それと、もう一つ」
「ま、まだ何かあるんですか……!?」
もういいでしょ。早くこの場から解放して。もう羞恥心で死にたくて堪らない。
「これ出したのもお前だろ」
そう言って彼が目の前に差し出してきたのは《あたしをたすけて》と書かれたノートの切れ端だった。
「な、何であたしって」
「アホかお前は。別人気取りたいなら筆跡くらい変えろ」
……ごもっともだ。更に正論で責められて、可能であるならばあたしは今すぐこの場で死んでしまいたいくらい恥ずかしかった。
「……助けて欲しいって、何を」
「え……?」
「うちの会長の方針だ。良いから内容を具体的に言え」
まさか、助けてくれるの?
……あたしを?
「あ……あの……!」
ひょっとしたら、彼があたしの待ち続けていた王子様?
でも、家庭環境のことなんて簡単に話しても良いのだろうか。それこそ自分の一番見られたくない部分を曝け出すみたいで、怖い。
「……い、いじめを、受けていて……」
迷った末に、あたしは学校での悩みを打ち明けることにした。
これは嘘じゃない。まあ、本当に助けて欲しいのは家族から……なんだけど。それは流石に言えなかった。
「虐め?」
「えっと、学校であからさまに避けられたり、居ないもののように扱われるんです……。だから助けて欲しい。普通の人間として扱われるようになりたい」
これも嘘じゃない。本当の気持ちだ。
しかし、あたしの言葉を聞いた彼は、あからさまに不機嫌オーラを纏わせてきた。そして物凄く長い溜息をついてくる。
「虐められたくないとか思ってる癖に自分に自信が無いこと理由に周りから攻撃されてもしょうがない見た目しておいて助けてくれって?」
「あっ……そ、れは……」
「自分が変われないから周りに変われって言ってんの、お前。何様?」
……もう、なんなの。
何でこの人は図星ついてあたしのこと虐めてくるの。
「わ、かってる……」
彼の言っていることは正論だ。だけど、あたしの口は止まってくれなかった。
「あたしだって、あたしだって変わりたかった!でもしょうがないじゃない!あたしはまだ子供で、親の扶養からは逃げられない!虐められないような外見にしようとしたって、親が許してくれない!髪だって切らせてくれない!お風呂にも入らせて貰えない!お小遣いだって貰えないのに、こんな見た目のせいでバイトしようと思っても何処にも雇って貰えない!じゃあ教えてよ!こんな状況であたしはどうすれば良かったの!?教えてよ!!」
……最悪だ。結局家庭環境のこともバラしちゃった上に人前で……しかも異性の前で思いっきり泣いてしまった。
最後の方なんて泣きじゃくりながらだからろくに話せてなかったかもしれないし、多分相手も何言ってるんだと思ったに違いない。
なんなの。なんなのよ。王子様だと思ったのに。やっぱり全然違う───────
「こぉら!かまおくん!だめでしょ!」