8-2
……九条とゲームセンターに行った日から今日で三日。
どうやら九条と奉日本はあの日を最後に失踪し、それ以来行方が知れないらしい。
「くそっ……」
やはり、止めるべきだっただろうか。せめて二人が一緒に居ることを願うしかない。悔しいが奉日本ならば九条を守れるだろうから。
「……あの、常磐鎌実さんですか」
突如、声を掛けられる。……誰だこいつは。小柄だし、下級生だろうか。まあ同級生でも興味の無い奴らの顔なんざいちいち覚えていられないが。
「人に名前を尋ねる前にまず自分から名乗れと教わらなかったか?」
「……すみません。僕は九条皐月といいます。九条宵子の弟です」
「……!?」
九条の親族、だと……!?
馬鹿な。奉日本が調べた情報によると九条家は父親と母親、馬鹿な兄が一人にやたらと甘やかされている妹が一人いるだけの筈だ。弟がいるなんて情報は何処にもない。だが、果たしてそんな嘘をつくメリットがあるのか?
「……九条に弟がいるなんて話は聞いたことがないが」
「僕の存在は世間から隠されておりましたので。姉も、僕のことを認識していないと思います」
確かに家族ぐるみで九条を虐待していた奴らだ。隠し子など、やりかねないこともないが……。
「……信じられませんか?」
「弟だという証拠でも出せば信じてやらなくもないが。第一、俺に何の用だ」
そう問い掛けると、九条皐月と名乗った男は一枚の封筒をこちらに手渡してくる。
「これは……奉日本の封筒か……?」
……奉日本の刻印で封がされている。奉日本が命令を下す時、必ず使われる封筒だ。あれはそう簡単に捏造出来るものではない。しかし、こいつが何故それを……?
「これは僕が奉日本家次期当主の晴臣様から直々に預かったものです」
封を切って、手紙を取り出す。そこに書かれていたのは間違いなく奉日本晴臣の字だった。
《常磐鎌実くんへ
これを君が読んでいるということは、私と宵子ちゃんは君の前から姿を消してしまったということだね。
心配しなくてもいい。ただ、そうせざるを得ない理由があるからそうさせてもらっただけだ。
そこで君にお願いがある。この手紙を託した少年、九条皐月くんと行動を共にして欲しい。
詳しい話は彼から聞いてくれ。
奉日本晴臣》
「……読み終えましたか?なら手紙は燃やしますので返してください」
……つまり、コイツのお守りが俺の次の任務ということか?
まだ状況は把握しきれていないが、恐らく九条と奉日本は危険な状態にあるのだろう。それで、姿をくらましたと。
証拠を残さないように手紙すらも燃やしてしまうという徹底っぷり。これはこちらも気が抜けないようだ。
「……ああ」
手紙を返すと、九条皐月は目の前でそれを燃やしてしまう。
「何となく把握した。それで、俺は何をすればいい──────?」




