7-9
「「!?」」
……俺は今、九条から何を告げられようとしていたのだろうか。それを知る機会は無くなってしまった。
「あれ、お邪魔だったかな?ごめんね!」
何故ならこの男……よろず部の "会長" こと奉日本晴臣に盛大に邪魔をされてしまったからである。……ひょっとして、わざとじゃないだろうな。
「白々しい、邪魔も何もどうせその辺で監視でもしていたんだろう?タヌキめ。暇人もここまでくると悪趣味だな」
「暇じゃないよ。これも改造計画の為だからね」
「……?……???」
……どうやら九条は一人置いてけぼりで、展開に着いてこれていないようだ。それもそうだろう。彼女とコイツはこれで初めて対面するのだから。
実はパーティーの時に一度絡んではいるのだが、その時コイツは双子の弟である寺本明臣の振りをしていたからな……。九条からしたら完全に初対面だ。
「え、えっと……寺本さん、ですか?」
混乱している九条がようやく口を開く。成程、そう捉えるか。確かにアイツらは一卵性双生児で顔だけ見れば瓜二つだ。
……いや、性格も厄介なところはそっくりか。そして目の前にいる方の男は、弟の方よりも厄介な性格をしているのだ。
「ああ。アキの方とは会ったんだね。私とは初めてだよ」
「えっ?えっ……?」
「私は奉日本晴臣。寺本明臣の双子の兄なんだ。そしてよろず部の皆が "会長" と呼ぶのは私のことさ。元々生徒会長でね。今は卒業してOBなんだけど、生徒達は未だに私のことを会長と呼ぶものだから……」
「話が長い」
どうでもいい話題になりそうだったのでさっさと切り上げさせる。興味のない話を聞く趣味は無い。
「本題に入れ。何をしに来た」
「もう。相変わらず鎌実くんはせっかちだなあ……」
お前が無駄話が多すぎるせいだ、と言いたかったがさっさと本題に入らせたいので無視を決め込む。
「おや、言い返してくれないのかい」
「お前と無駄話をするつもりはない」
「やれやれ……冷たいなあ」
わざとらしくリアクションを取る奉日本。当然のように無視。
「……さて。流石にそろそろ本題に入ろうかな。これ以上怒られるのも嫌だしね。……と言っても今回は君じゃなく、宵子ちゃんの方に用があるんだけど」
「えっ、あたしですか?」
突然名指しされ、目を丸くする九条。
九条にとっては予想外だったようだが、俺はそうでは無いかと思っていた。俺に対してなら個別に連絡を寄越せばいい。今まで九条に対して徹底して姿を現さなかったというのにわざわざ声を掛けてくるということは彼女に用があるからに他ならないだろう。しかも、直接伝えなければならないような。
「そう、君だよ。デートの邪魔をしちゃうのは本当に申し訳ないんだけどね。急ぎの用事なんだ」
「あ、あう……!デート……」
おい九条。そこでいちいち反応するな。コイツの玩具にされるぞ。
「楽しんでるところに水を差すような真似をして申し訳なかったね。早速だけど、今すぐ私と共に来てくれないかな?」
「え……あ……」
九条は俺がクレーンゲームで取ってやった変な魚のぬいぐるみを抱きながらこちらをチラチラと見てくる。俺を一人残すことを気にしているのだろうか。気遣わなくてもいいというのに。
「……気にするな、行け」
どっちにしろ、奉日本の方を優先すべきだ。そもそもこのデートだってコイツの意思でさせたことなのだから。……そう思うと胸糞悪い。
「すまないね。今度埋め合わせするよ」
「必要ない」
「あ、えっと、じゃあ……行ってきます」
ぬいぐるみを抱きながらこちらにぺこりと頭を下げ、九条は奉日本と共に消えた。
……九条と奉日本が行方知れずになったと連絡が入ったのは、それから三日後のことだった。
第八話に続く……




