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「うう……ごめんなさい。足、引っ張っちゃいましたよね……」
「そうだな」
その通りだけど少しは否定して欲しい。女の子に対してこの対応じゃ、今更ながら彼に恋人が居ないという事実も頷ける。
「……だが、面白いものは見れた」
そう言いながらあたしの頭の上に何か固いものを乗せる先輩。
「ちょ、こ、これ何ですか」
落とさないように取ろうとしても頭が動いてしまい、結局落としてしまう。
「あっ!」
「……ったく、相変わらず鈍臭い女だな」
まるで最初からあたしが落とすことが分かっていたかのように見事にそれをキャッチする先輩。だったら最初から頭に乗せなきゃいいのに。いじわる。
「ほら」
「……もう。何なんですかこれ……」
先輩から手渡されたそれは……缶ジュースだった。
「疲れただろ、飲め」
「あ、ありがとうございます……」
「気にするな。適当に選んだだけだ」
変なジュースだったらどうしようと思ったけど、普通にミルクティーだった。一口飲んで、一息つく。
「ミルクティー好きなので嬉しいです。ありがとうございました」
「ん、そうかよ」
……意地悪なのに、こういうふとした優しさが好き。
しかもそれをやってあげた感を出さないで出来るところが好き。
ごめんなさい。さっきは恋人が居ないのも頷けるとか思っちゃったけど、他の人に対してもこんな感じだったら……モテちゃうかもしれない。
彼のことを好きになっちゃう人がいるかもしれないし、ひょっとしたらもうそういう人がいるのかもしれない。彼が気づいていないだけで。
……嫌だな。あたしにだけ優しくしてて欲しい。誰も彼の魅力に気づかないでいて欲しい。彼を好きなのが、あたしだけであって欲しい。
でもこんなことを考えてしまうあたしが、一番嫌だ……。
「……またトリップしてるのか、お前」
「あ……ごめんなさい。デート中なのに……あう」
その瞬間、額を小突かれてしまう。
「何を考えているかは知らんが、余計なことは考えなくていい。デート中なんだろう?そのことだけに集中していろ」
「は、はい……そうですよね……」
ミルクティーを飲み干し、立ち上がる。
「……もう良いのか」
「はい。ちゃんと休憩できましたし、行きましょう」




