6-7
「我は魔界からやってきた魔族の末裔!名を氷室影羅というのだよ!」
おお、なかなかの設定。というかそれは本名なのか、それとも魔族の末裔としての設定なのか。どっちなのだろう。
「あっ……違う。その名はもう、捨てたのだ。我の真名は……山田景國」
設定が曖昧過ぎる……!!
そこはちゃんと練って欲しかった。というか、これは設定なの?本名なの?ああもう!ややこしい……!!
「えっと……それは、本名ですか?」
ややこしいので直球で聞いてみることにした。ああ、でも真名とか言ってたっけ。ってことは本名?でも魔族の末裔としての名前が真名だったとしたら、本名じゃない?……自分で言ってて訳分かんなくなってきた。
〜♪
という何とも微妙な雰囲気の中、突然壮大なBGMが鳴り出した。これは、オペラだろうか。よく知らないけど。
「ああ、すまない。我の着信音なのだよ」
そう言って山田さん(仮)はスマホを取りだし電話に出る。……魔族の末裔でもスマホって持ってるんだ。妙に現代的だ。
「もしもし?」
しかも出方も普通だ。なんかもっと、「……私だ」とかそういう感じで出るのかと。どうやらあたしは少々、魔族の末裔に期待し過ぎていたらしい。
「ふむ、我が盟友か。ああ、我は無事九条さん……いや、宵の娘と相見えることが出来たのだよ。……む?代わって欲しい?うむ、理解った。すぐに繋ごうぞ」
あたしの了承も得ず、山田さん(仮)はあたしに通話中のスマホを押し付けてきた。……どうしよう、電話の向こうもこんな人だったら。あたし、応対出来る自信無い……。
「……っ、も、もしもし」
でも受け取らない訳にもいかない。覚悟を決めてスマホを受け取る。
『突然すみません。俺は楪という者ですが、貴方が九条宵子さんで間違いないでしょうか?』
お、思ってたより普通だ……!安心した……!!
ほっと胸を撫で下ろし、あたしは返答する。
「は、はい。あたしが九条宵子で間違いないです。えっと、楪さん……でしたっけ?あたしに何か用でしょうか……?」
『……ああ、何も説明せずに申し訳ありません。俺も山田さんもよろず部の部員なんですよ』
そうだったのか。というか、やはり山田さんは本名だったらしい。
よろず部の方達だったらあたしに用があるのも頷ける。ということは今回、二人が接触してきたのはあたしの改造計画のことだろう。
……だけど、今はちょっと早く帰りたい。だって、家に客がいるんだもの。
「あ、あの、改造計画のことでしょうか?申し訳ないんですけど」
『いえ、こちらこそ申し訳ないんですが今日は改造計画のことでは無いと言いますか……こちらのミスの謝罪と言いますか……』
「えっ……ちょっとイマイチ話が伝わって来ないんですけど……?」
『今日、改造計画の為にそちらに寄越す筈だった人物が行方不明でして。なので今日の計画は延長して頂けないかというお願いの連絡だったんです』
ミスなんて言うから身構えちゃったけど、あんまり大した内容じゃなかったのでほっとする。
というか、ぶっちゃけ今日は避けたかったのでこちらとしても有難いのだが。




