6-5
「……い、一応これで出来たと思いますけど」
本当は病院に行った方が良いのかもしれないけれど。この人、ホームレスだもんなあ。保険証どころかお金も持っていないだろうし。
「おう、助かったぜェ。……お前さん、名前は?」
「えっ……?あ、九条……宵子です」
……名乗っちゃって良かったのかな。でも呼び名が無いと面倒くさいもんね。
「九条……」
「あの、あなたのお名前は……?」
「……あァ、俺か?……黎一郎だ」
黎一郎さん、か。
さて、この後どうしよう。学校があるからあんまりのんびりしていられないけど……知らない人を一人で自分の部屋に置いて大丈夫だろうか?
だからと言って怪我人を出て行かせるのもなあ……。まあ、幸い引っ越してきたばかりで盗られて困るようなものは何も無いのだが。
「……あァ、そろそろ登校か」
「あっ、はい。そうなんです」
「なら出て行く。心配しなさんな」
「えっ、でも……」
そうなるとやはり腹の怪我が心配だ。結構深かったし、普通に考えて絶対安静だろう。
「えっと……だめです」
「はァ?」
「うちに居てください。こんな状態で外に出して野垂れ死にされたら困ります」
「こんな怪我程度じゃ死なねェよ。第一、自分の部屋に知らねェ男を一人にしとくって不安だろ」
「安心してください。あたしは引っ越してきたばかりで、金目のものは一切ございませんので」
自分でもこの選択をしたことに驚いた。だって、普通に放っておけばいいじゃない。知らない人なのに。
でも何でだろう。それが出来なかった。……なんか、この人何処かで見たことがあるような気がする。知り合い?でも家族からも迫害されて、親戚の家にすら遊びに行ったこともないあたしに?
「……とにかく!あたしは大丈夫なので、家に居てください!絶対安静ですからね!?」
「サヨコ、アンタ人が良いって言われねェか」
「さあ、今まで他人と関わってこなかったのでよくわからないです。……というか、あたしはサヨコじゃなくて宵子なんですけど」
「あァ、悪ィ。サヨコ」
「謝る気も訂正する気もないんですか」
これはもうわざとじゃないのか。別にいいけど。そもそもあたしのことを "宵子" って呼ぶのはあたしが嫌いな家族だけだし。だからあんまり自分の名前、好きじゃないし。
「……で、こんなにくっちゃべってて良いのかァ?」
「あっ!時間!」
時計を見ると本当にそろそろ出ないと危ない時間だ。
「絶対!家に居てくださいね!そうだ、お昼は……前にコンビニがあるのでこのお金で買ってください!」
あたしは財布から千円札を出し、黎一郎さんに手渡す。
「……いや、良いのかよ。お前さんは……」
「大丈夫です!何とかなります!」
確かになけなしの千円札だったけど!流石に家に置いていく以上、何も食べないで待っていろと言うのはどうかなと思って!
「後、お昼を買う為に家を出る時は鍵をかけてください。これ、渡しておきますから。あたしは多分16時頃には帰るのでちゃんと大人しくしててくださいね?あ、お風呂は使って大丈夫ですから!」
もう本当に時間が無いので早口で捲し立てるように言ってしまった。伝わっただろうか。伝わったと信じたい。
あたしは彼に鍵を押し付け、家を出た。最後にもう一度、念を押すように、大人しくしててくださいと付け足して。




