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「……はあ。帰りたくないな……」
会場からの帰り道。ぽつりと呟く。
昨日は常磐先輩の部屋に泊めて貰うことが出来たけど、今日はそうはいかない。
何日もお世話になるなんて失礼だし、そもそも彼は男子寮に住んでいるのだ。昨日は許可を貰えたとはいえ、頻繁に女生徒が出入りするのはあまり宜しくないことだろう。
「何だ。まだあそこに居たかったのか?」
「そういうことじゃないです。家に帰るのが嫌なんです」
「……なら今日も帰らなければ良いだろう」
「えっ……」
まさか先輩からそう提案して貰えるとは思ってはいなかった。
甘えてしまおうかとも思ったが、そうはいかない。昨日は(一応)兄に報告した上で外泊したが、今日はそうじゃない。家族が……許してくれる筈がない。
「……駄目です。帰らないと、あたし……」
「悪いがこっちも帰らせる訳にはいかない事情があってな」
「会長命令……ってやつですか」
「ご名答。癌が分かった以上、無理にでも引き止めろとのお達しだ」
「で、でも、やっぱり女生徒が男子寮に出入りするのってイメージ的にも良くないんじゃないですか?」
「だろうな。だから会長様は自らの別荘をお前の仮住まいとして提供してくれるらしい。流石、天下の奉日本様はやることのスケールが違う」
また出てきた "会長" と "奉日本" 。
奉日本という名は、あたしだって知ってる。この世界で一番の権力を持っていると言われている一族。……流石にそれは盛り過ぎだと思うけど。
恐らく "会長" という人は奉日本の権力者なのだろう。だから無償であたしを助けようとしてくれるんだ。
でも、だからと言って奉日本とは何の関係もない一般人のあたしに、別荘をひとつポンと貸し出せるなんて……普通、する……?
「……あの、どうしてその "会長" さんはここまでしてくれるんですか……?あたしはただの普通の一般人なのに……」
「さあな。お前が普通かどうかはさておくが。あいつの考えることは到底理解出来ん。いや、したいとも思わないが」
「ずっと思ってたんですけど……仲、悪いんですか……?」
「……良いと思うか?」
それは実際に "会長" さんに出会ったことがないからどうか分からないけれど……。少なくとも常磐先輩は "会長" のことを物凄く嫌っていることだけは分かる。
「まあ、その……喧嘩してるのかなあ、みたいには感じましたけど」
「そうかよ。……さて、どうでもいい話は終わりだ。着いたぞ」
先輩にそう告げられ視線を移した先には、最近建てられたばかりであろう高層マンションが佇んでいた。
「……!?え、ええっ!?あの、別荘ってまさか」
「このマンションそのものだが」
「ええっ!?こ、こんなの!マンションじゃなくて億ションじゃないですか!!」
「上手いこと言おうとするな。ここの13階だ。とっとと入るぞ」
あたしは別にボケたかった訳じゃない。1億を超える高級マンションのことを億ションって言うじゃないか。六本木とか、そういうところにあるやつ。いわゆるタワマンってやつ。
ここ!?ここの全室が別荘だって言うの!?どんなお金の使い方してるの "会長" って!
「……おい、聞こえなかったか?鳥女」
「……はっ!すみません!タワマンに住むなんてあまりにも現実離れしていてトリップしていました!」
「ここは19階建てだから正式にはそう呼ばない。…… "会長" 様が仰るには部屋番号1304と1305が空室なのでそこを俺達の部屋にしてくれ、ということらしい」
「は、はい!……って、あの、もしかして隣に住むんですか!?」
「……ああ。男子寮に女を連れ込んだことがバレて、追い出された。間違いなく "会長" 様の思い通りに事が運んでいるんだろうな」
確か許可取ったとか言ってなかったっけ!?それとも嘘だったの!?
……まだ思考が追いついていないあたしに1304号室の鍵を押し付け、常磐先輩はさっさと1305号室に入っていってしまった。




