5-10
「あーっ!やっと見つけましたよおふたりさん!!」
すると、すぐ近くで聞き覚えのある声……というか、寺本さんの声がした。
「あ、寺本さ……」
「おい貴様。散々こいつを振り回しておいて放置して。天下の奉日本様は余程偉いんだろうな」
「……何のことですか?私、確かに常磐さんは振り回すつもりでしたけど、あなたはさっさと私から離れて別行動してたじゃないですか。まさか九条さんと合流してたなんて思いもしませんでしたけど」
「何を言ってる。お前はさっき九条を連れて……」
「行ってませんよ。だいたい私、今ようやくあなた達を見つけたところなんですからね!?」
……寺本さんと、話が噛み合わない。
あたしは確かに彼と一緒に踊った筈。夢かもしれないとも思ったけど、間違いなく現実だった。だって常磐先輩が目撃しているんだもの。
でも、寺本さんは今あたし達とようやく合流出来たところだと言う。それはおかしい。
じゃあさっきの寺本さんは…… "彼" はいったい誰だったの……?
「……成程、あいつか。……してやられたようだな」
どうやら常磐先輩だけは事態を何となく把握しているようだけど聞ける雰囲気ではない。何故なら……
「ああもう!ほんとはおふたりにダンスでもして貰おうと思ってたのに!探してる間に終わっちゃったじゃないですか!もう!ばか!ばか!」
「知らん。残念だったな、奉日本さん」
「私は寺本ですから!あー!これでふたりの仲も急接近すると思ったのにー!」
……ご覧の通り、寺本さんが割と荒れているからだ。
まあ世の中には自分のそっくりさんが三人居るって話も聞くし……物凄いそっくりさんだったの、かも?
「……ったく、これの何処がコミュ障克服なんだか……。ほら、さっさと帰るぞ」
「あ、はい!」
「あ、ちょっと!そこ!二人で勝手に帰ろうとしない!」
引き止めようとする寺本さんを無視し、常磐先輩は勝手に歩いて行く。
「あの……良いんですか?」
「散々付き合ってやっただろう。これ以上付き合う義理は無い。それともお前は俺無しで残る気か?」
ぶんぶんと首を横に振る。
それは嫌だ。あたしが今一番信頼しているのは常磐先輩なのだ。彼無しで置いていかれるのだけは本当に困る。
「い、一緒に帰らせて頂きます」
「ふ、賢明な判断だな」
寺本さんには悪いけど、あたし達はひと足お先に会場を後にしたのであった……。
「まさか、 "悪魔の子" だけでなく、 "呪われた娘" まで見つかるとはな……」
「……どう処理するか、考えておかねば。ああ、全く面倒なことになった……」
……そんなあたし達を遠くから見ている、怪しげな視線には一切気づかないまま……。
第六話に続く……




