5-9
「大丈夫です。私がちゃんとリードしますから。……さあ、ヒヨってるワンちゃんは放っておいて、行きましょうか!」
「えっえっ!?ちょっと!」
どれだけ否定してもあたしの意見を聞いてくれるつもりは無いらしい。
寺本さんは強くあたしの手を引いて、中央の方へと駆けていく。常磐先輩が止める間も無かった。そして、そのまま曲が始まってしまい……。
「わ、わ……!」
どうすればいいか分からなくて、足がもつれて転びそうになってしまう。そんなあたしを、寺本さんは抱き寄せるように支えてくれた。
「あの、あの……!」
「大丈夫だから。私に合わせてごらん」
「は、はい……えっと……」
「そう、そんな感じ」
寺本さんのリードが上手いのか、あたしも何とか合わせることが出来ている……っぽい。これでいいのかよく分からないけれど……。
「……やったことあるのかな。身体が慣れてる感じがしますね」
暫く合わせるのに必死だったが、確かに気がつけば身体が勝手に動いている。
……へんなの。あたし、初めての筈なのに。なんだか、何処かで踊ったことがあるような気がする……。
「わ、分からないです。でもきっと、寺本さんの教え方が上手いんだと……」
「……明くん」
「えっ?」
「明くんって、呼んで欲しい。……駄目ですか?」
「えっ、あ……」
こんな近くで囁かれたら、ぞくぞくして、どうにかなってしまいそう。
でも何故か、嫌だとは思わなかった。
むしろ、どこか懐かしいような────……
「……九条っ!!」
背後から自分の名を呼ばれ、ふと我に返る。
「……!?きゃあっ!!」
その瞬間、ふらついてそのまま後ろに倒れそうになり……
「……この、馬鹿女。周りを見ろ」
「ご、ごめんなさい……」
すんでのところで常磐先輩に受け止められる。ああ、もう何回彼に助けて貰っただろう。情けない……。
「そういえば、あいつはどうした」
「……?え、あれ……?寺本さんは……?さっきまで一緒に居たはずなのに」
「俺が駆け付けた時には既にお前一人だったが。クソ、これだから奉日本は……」
分かりやすく不機嫌になる先輩。でもどうしてだろう。確かにさっきまであたしは寺本さんと一緒に……。




