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「はあ……っ」
緊張のあまり息を止めてしまっていたのか。あたしはようやく呼吸することを覚え、その場に座り込む。
「みっともないぞ、早く立て」
「ご、ごめんなさい……」
「まあ、相手が相手だから仕方ないが。……せめて掴んでいろ」
「はい……」
確かにこんなところで座り込んでいたら変に注目されちゃう……。気合いで立ち上がり、倒れないように常磐先輩の腕にしがみついた。
「あの……あの人はいったい……?先輩とお知り合いなんですか……?」
「さあな。あんな趣味の悪い知り合いは居ないつもりだが」
……多分、嘘なんだと思う。
少なくとも相手は先輩のことを知っていた。だけどはぐらかすということは言いたくないということだ。これ以上しつこくして、嫌われるようなことは避けたかった。
「あっ!九条さん、ようやく出会えましたね!というか常磐さん、こんなところに居たんですか!もう、コミュ障を治して貰うって言ってたのに!」
そんなあたし達を見つけて、走り寄ってきたのは寺本さん。知った顔を見て少し安心する。
「知るか。俺には必要無いと言っただろうが」
「用があるって言ったのに勝手にはぐれるなんて酷いです。それとも、常磐さんは "待て" も出来ないワンちゃんなんですか?」
「黙れ。お前こそ父親の躾くらいしっかりしておけ。コイツに援助交際を持ちかけていたぞ」
「おやおやまあまあまあ!お父様が援助交際ですか!まああのクソ……あの人ならやりかねませんけど」
一瞬、寺本さんの黒いオーラが見えたような気がしたが、気の所為だということにしておこう……。
「そんなことよりおふたりとも、この後のダンスパーティーには参加されますよね?」
「しない。帰る」
寺本さんが言い終わるのと同時くらいに先輩が速攻で否定する。いや、あたしだって無理だ。一般の作法すら微妙なあたしがダンスなんて出来る訳がない。
「あ、あたしもむりで……」
「そうですか。仕方ないですね。なら、私が九条さんのお相手になるしかないですよね」
「「はあ!?」」
思わず常磐先輩とハモってしまった。
……って、そんなことより!あたしがダンス!?むりむり!絶対無理だから!!
「おい、何言ってやがる。こんな鈍臭い奴に出来る訳無いだろうが」
「は、はい!そうです!無理です!!」
馬鹿にされている感は否めないが、ここは肯定するしかない。だって、本当に無理なんだもの……!!




