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「ど、どうしましょう……?」
とりあえず壁際に移動し、小さくなっておく。
うう、とにかく早く帰ってきて……!
「……?あの娘は、まさか……」
あたしは壁だと念じ続けて5分程やり過ごした頃だろうか。一人の男性がこちらを見た。
(あ、あたしは部外者です……!こんな場違いなところにいてすみません……!!)
なるべく目を合わさないようにしていたつもりだが、その男性はこちらへと近づいてくる。
勿論あたしはその人のことは全くと言っていい程知らないし、相手もあたしのことを知っている筈がない。ああ、やっぱり場違いだって怒られちゃうんだろうか。
「……君は、」
「す、すみません!場違いな女がこんなところにいてすみません!あ、あたしは、寺本明臣さんに連れられて来ただけなんです……!!」
とりあえず寺本さんの名前を出してみた。するとそれは正解だったのか、男性の表情は少し柔らかくなる。
「そうか……明臣の友人だったのか。勘違いしてしまってすまないな」
「い、いえいえ!あたし、どう見ても怪しいですから!こちらこそ勘違いさせちゃってすみません!」
「私は明臣の父の幸臣だ。あいつはあまりに女っ気がないものだから親としては心配でね……まさか君のような女性の友人がいるとは。少し安心したよ」
「あ、で、でも!あたし別に寺本さ……明臣さんとはそういう仲って訳じゃなくて……!」
「そうなのかい?それは少し残念だな。あいつは少し変わっているところもあるが、良い奴だぞ?」
こ、これはもしかして寺本さんのお相手に……って誘われてる!?
ここで断るのも失礼な気がするけど、でも、そもそもあたし、寺本さんとは今日初めて出会ったばかりだし……!!
「……そうだ。まず、君の名前を教えて貰えないか?名前も知らずに息子を勧めるなんて……色々と順番をすっ飛ばしてしまったな」
「あ、名乗りもせずにすみません!あたし、九条宵子と申します!」
「……九条?」
その瞬間、この場の空気が一瞬で凍りついたように感じた。……どうしてだか、分からないけれど。
「九条、宵子……だと?」




