5-3
「ご、ごめんなさい……」
赤く染まった左頬を押さえながらこちらを睨みつける常磐先輩。向こうに落ち度は全く無かったのであたしはひたすら謝ることしか出来なかった。
「ふん。それ程までに嫌だったってことだろ。別に良い」
「そ、その、嫌だった訳じゃないんです。あたし、男の人に触れられてびっくりして、慣れてないから……」
「今朝」
「えっ?」
「男に支えられていただろ」
み、見られてた!?
ど、どうしよう!誤解されてる!何か言い訳……って別に言い訳なんてする必要ない。別にやましいことしてた訳じゃないし!
「……はあ」
色々考えたせいで暫く黙っていると痺れを切らしたかのように先輩が溜息をつく。
「言い訳はいい、俺が苦手なんだろう?他の男に支えられる分には何ともなさそうだったじゃないか。……まあ、お前にも人を選ぶ権利あるもんな」
うう……言い訳しようとしたことまで見抜かれてる。
「ち、違います!あれは寝不足で倒れそうだったところを支えて貰っただけで……!」
「俺だって起こしに来た "だけ" だが。苦手だっていうのは否定しないわけだな、彼氏役とやら降りてやった方が身のためか?」
「……っ!!」
それは嫌です、と言いかけて口を噤む。
睨まれてる。何を言っても信じて貰えない。
……というか、別に誤解されても良い筈なのに。何で嫌なんだろう、あたし。でも、なんだかすごく嫌だ。
先輩はそんなあたしを見てもう一度溜息をつくと、踵を返して保健室の扉を開けた。もう話したくない、そう言われているようで胸がズキリと痛む。
「せんぱい……」
何も言えなくて、でも信じて欲しくて、出ていくのを止めたくて。あたしは立ち上がって先輩の手をぎゅっと掴んだ。
どうやら先輩にとっては予想外だったようで、驚いたような表情であたしを見る。
「お前……」
「先輩、あたし……」
先輩の顔をじっと見つめる。……その時だった。
「はろはろ〜!何してるんですか?痴話喧嘩ですか?」




