5-2
「……サヨちゃん」
何だろう。夢の中で誰かに呼ばれている気がする。
何故夢かと分かったかというと、あたしの名前は "サヨ" ではないからだ。
「サヨちゃん、まだ寝ているのかい?」
夢の中の人物はまだ眠っているあたしを起こそうと揺する。
ううん。人違いなんだけどなあ……。それにしても前にも何処かでその名前で呼ばれたことがある気がする……。思い出せないけど。
「ねえねえサヨちゃん」
「うるさいです……あたし、サヨなんかじゃない……」
あまりにもしつこいその手をあたしは振り払う。だけど、その声の主は諦めてはくれなかった。
「サヨちゃん、一緒に遊ぼうよ」
「遊びません……あたし、サヨじゃないですし……えっ?」
……薄目を開けてみると、あたしの身体を揺すっていたのは小さな子供だということが分かった。
「あたし、こんな小さな子供の知り合いなんていませんけど……」
「そっか。サヨちゃん大人になっちゃったんだ」
「は……?」
「だったら、サヨちゃんの姿に合わせて会いに行くね。待っててね、サヨちゃん」
「いや、どういう意味なんですか……?というか、あたしサヨじゃないです……!」
「またね、サヨちゃん」
「……!ちょっと!」
訳の分からない言葉を残され、子供は目の前から消えようとしたのでそれを止めたくて手を伸ばす。……おかしいな。知らない筈の子に、どうしてこんな……。
「……起きろ、馬鹿女」
「ふえっ!?」
真っ直ぐと伸ばされたあたしの手を受け止めたのは、常磐先輩の手だった。……というか、何で手なんか伸ばしてるんだろう、あたし。変な夢でも見たのかな……。
「おい、そのまま思考に入るな」
「す、すみません……」
「魘されていると聞いたから様子を見に来てやってみれば……何だ、サボりか」
「ち、違います。その昨日ちょっと眠れなかったので……」
「それをサボりじゃなくて何と言うんだ」
うう……ごもっともです。あたしは項垂れる。
でも魘されていると聞いた……?常磐先輩が来る前に、誰かがあたしを保健室で見たってことかな。だけどそれっていったい誰?
「……って!!」
まだ夢から覚めたばかりだったから気づかなかったけど。……あたしはとんでもないことに気づいてしまった。
「て!!手!!手!!」
「……はあ?何だ同じ言葉を繰り返して。ついに壊れたか?」
「手ぇぇぇぇぇ!!!!」
……バチーンという小気味よい音が保健室に響き渡った。




