5-1
「ふあ……ねむ……」
今日何度目の欠伸だろうか。まあそうなってしまうのも仕方ない。昨日は色々あって眠れなかったのだ。
「いろいろ……」
……いけない。余計なこと思い出しちゃった。思わず顔が熱くなる。
そう。昨日は本当に"色々"あったのだ。男の子の部屋に泊まったとか、頭撫でて貰ったとか……。
「……!きゃっ……!」
気づいた時にはもう遅かった。寝不足で足がもつれ、あたしは転倒する。それが確定した今、もう出来ることといったらせめて顔から着地しないよう手をつくことだけ……!
「何をやっているんだ、貴方は」
「……ふえ?」
結論から言うと、あたしはずっこけることは無かった。床にスライディングする前に誰かがあたしを支えてくれたから。
「あ、あの、誰ですか?」
「……転倒するところを助けて貰っておいて礼のひとつも無しか。最近の女子はこれだから困る」
う。最近の女子は〜というところは否定したいものだが、それ以外は大正論だ。助けて貰ったらまずお礼だろう。
あたしは立ち直し、改めて深々とお辞儀をする。
「ご、ごめんなさい。助けてくれてありがとうございます……」
「もう良い。顔を上げろ」
礼儀もなっていない女だと呆れているのだろうか。恐る恐る顔を上げると初めて相手と目が合う。……男子だったのか。中性的な声だったし、体つきも細かったから気づかなかった。
「……ふ、」
あたしと目が合うと、その男子は柔らかく微笑みかける。綺麗な顔だなあ、と思った。
「すまない。威圧するつもりはなかったんだ。貴方が目の前で倒れそうになっていたから、つい手を貸してしまった。……大丈夫か?」
「は、はい……!あの、本当にありがとうございます!助かりました……!」
「ふふ、私はただ支えただけ。命を救った訳でもないのに大袈裟だな。でも、調子が悪いなら保健室に行った方がいいかもしれないな」
「だ、大丈夫です!ただの寝不足なので!」
「寝不足?まあ、それでも保健室に行った方が良いかもしれないぞ。それに……」
「水鏡ー!!早く来いよー!!」
「……と、すまない。友人に呼ばれてしまった。後は一人で大丈夫だろうか?」
「あっ、はい!大丈夫です!行ってください!」
「ああ。もう転ばないよう気をつけろよ」
水鏡さん、か。聞いたことのない名前だ。別のクラスの子か、それとも先輩かもしれない。
友達に呼ばれ、彼は去ってしまった。きっと人気者なんだろうな、と思った。綺麗な顔だったし。
「さて、今度は転ばないようにしなくちゃ……」
そう独り言を呟いた途端、世界がぐらりと揺れる。やばい、本格的に眠いかもしれない。
あたしは授業に出るのを諦め、水鏡さんに言われた通りに保健室に向かうことにしたのであった……。




