4-10
「……おい、大丈夫か」
「……?」
目覚めて一番最初に目に入ったのは、妙にぼやけて見える常磐先輩だった。
どうやらあたしは泣いていたらしい。原因は、全く思い出せないけれど。
「どうした、何があった」
「あ、はは……その、覚えてませんけど……怖い夢でも見ちゃったんでしょうかねえ……?」
とりあえず涙を止めようと手で拭ってみたものの、溢れてくるそれは一向に止まる気配を見せなかった。
「お、おかしいですね……あれ、あれ……?」
「……水でも買ってくる」
気まずかったのか、それとも女子が泣くところを見てはいけないと気遣ってくれたのか、先輩は立ち上がって外出しようとする。
「……あ、やだ……!」
……が、思わず止めてしまった。
何で止めてしまったんだろう。一緒に居てもただ気まずいだけなのに。
だけど離れて欲しくなかった。ここに居て欲しかった。
「……どうしたらいいんだ」
訳が分からない、とでも言いたげに溜息をつき、あたしの目の前に座る先輩。どうやら外出するのは止めて、一緒に居ることにしてくれたらしい。
「…………」
あたしはそんな先輩を見つめることしか出来ない。お互い、物凄く気まずい空間に違いないだろう。だけど、そこから動こうとはしなかった。
「……い、」
「……は?」
「だ……っ!!」
ふと、ひとつの欲望が頭に浮かぶ。そしてそれを口に出す寸前に、慌てて飲み込んだ。
「何やってんだ、お前」
目の前に座る先輩が訝しげにあたしを見る。だけどあたしは何も言えない。
「はあ……何か言いたいことがあるなら言え」
言えない。こんなこと言える訳がない。
だけど、訳の分からない欲求があたしの中に生まれてくる。
あたまをなでてほしい
だきしめてほしい
くちづけをして──────
……だめ!!最後のだけは絶対だめ!!
というか、二番目もだめ!!
一番目は……ううん、ギリギリセーフ……?でも常磐先輩的にはアウトっぽいな!?
というかあたし、別にこの人のこと好きじゃない。好きじゃないはずなのに。
例えるならあたしの中にもう一人のあたしがいて、そのあたしが常磐先輩のことを欲しい欲しいって叫んでるような感じ。自分で言ってて訳分かんないけど。
だめだ。このままじゃ本当に破裂しそう。そして色々ぶちまけて、ドン引きされそう。
でも痛い。胸の奥のところがすっごく痛い。何とかしないと。何とか……。
「……っ、あたま、」
「……?頭がどうした。おかしくなったとでも言いたいのか?」
……うう。それは、ある意味正しい。実際今のあたしは完全におかしくなっている。でもそうじゃなくって。あたしが言いたいのは。
「頭、撫でてください……」
色々限界なあたしが何とか口にしたのは、多分ギリギリセーフだと思われる一つ目の選択肢だった。




