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「……これは俺の所見なんだが、あの男は九条に歪んだ感情を抱いているだろうな。束縛して、自分の思うようにコントロールしたいように見える」
『……ふむ。それで?』
「自分の知らないところで何かしているのが嫌なんだろう。全て自分の監視下に置きたいように感じた。……だから、恋人の存在を知ったら発狂するかと思ってな」
『うーわあ……やっぱり君、えげつない責め方するねえ……』
「ふん、お前ほどじゃないだろう」
実際、この "会長" だったらもっとエグい責め方で相手を沈めていただろう。
『それで?相手が逃亡するくらいなんだから君、相当なことやっちゃったんじゃないかい?』
「ああ、抱き寄せてやった」
『わあ、抱き寄せちゃったのかい』
「……あ」
何もここまで報告する必要は無かっただろうに、気づいた時には既に遅かった。きっと今頃コイツは受話器越しにニヤニヤと笑っているのだろう。
「……今のは、忘れろ」
『ふふふ、頭を殴られても忘れられないくらいのインパクトはあったね』
「よし、今から殴りに行く」
『やだあ。鎌実くんこわぁい』
絶対に怖いと思っていなさそうな声色で "会長" は笑いながら言う。……クソ、調子が狂うが不快なことこの上無い。用事は済んだんだからこのまま電話を切っても構わない訳だが。
『……まあ、それは冗談として。今は九条くんのそばに居てあげてくれないかな。彼女も不安だろうし』
もとよりそのつもりだ。それに、どうせ殴りに行ったところでコイツは上手いこと逃げ出すだろうからな。こっちだって無駄な体力は使いたくない。
『それと、これからも九条くんのことよろしく頼むよ。何なら恋人宣言しちゃったんだから、一緒に居る方が自然なんじゃないかな』
「はあ……また面倒なことを……」
……いや、待て。
というか、何故コイツはここまで九条のことを気にするのだろうか。コイツがこんなに依頼人に寄り添ったことは今までに無かった気がする。依頼人はあくまでただの依頼人。そういうスタンスだった。
対して九条に対しては根掘り葉掘り状況を聞いてきて、俺が勝手にやらかしたことまでアフターケアはしっかりしていて、更に出来るだけ九条の側に居てそれも見張る訳ではなく気にかけろと?
……これは単なる依頼の領域を超えている気がする。
そもそも、《あたしをたすけて》なんて曖昧な依頼を受けること自体がおかしい。まさか、コイツは九条と何か関係がある?ならば何故、自ら九条の側に居てやらないのか。近寄れない理由でもあるのか?
「……奉日本、お前九条と何か」
『ねえねえ!そういえば初めて女の子を抱き寄せた感想はどうだい?そういうの初めてだよね、鎌実くん!お泊まりで色々しちゃっても良いんだよ?勿論合意の上なら、だけどね!ああでも君は出来ないかな?だってどうて───────』
ブチッ。
あまりにも不快だったので勢いで電話を切ってしまった。
上手くはぐらかされた気がするが、ああなったらアイツは意地でも吐かないだろう。それよりもこっちが諦めるまで弄り倒してくるに決まっている。
「……部屋、戻るか」
用件は告げた。きっと頼んだ物は今夜に黒服にでも届けさせるだろう。
それに他人をいつまでも自分の部屋に一人にしておく訳にはいかない。俺は部屋に戻ることにした。




