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「……男子寮とか聞いてませんよ。ここ、女子は立入禁止じゃないんですか」
「その許可も今から取るんだ。とりあえずその辺に座って待ってろ」
……やってしまった。今になって自分の言動を後悔する。だって、あのクソ野郎に言いたいようにさせておくのが不快だったから。つい。
女どころか友達すらも家に泊めたことがない……いや、泊めるどころか部屋に上げたことすら無い自分にはあまりにもハードルが高過ぎた。その上、恋人だという嘘のオマケもついている。
これはもう自分一人でどうにか出来る範疇を超えている。凄く、いや物凄く気は進まないが "会長" の助けを借りるしかない。……電話をかけるのも嫌なんだが仕方ない。
九条に電話を聞かれる訳にはいかない。一人部屋に残し、外に出る。
「……癌が分かった」
『いきなり電話してきて挨拶も無しに第一声がそれかな。まあ、君のそういう無礼なところは嫌いじゃないよ!』
開口一番それか。俺はお前のそういうところが嫌いだ、という言葉はぐっと飲み込む。今話すべきはそんな無駄なことじゃない。
『で、その癌っていうのは九条くんのお兄さんのことかな?』
分かっているならわざわざ俺を九条に接近させて調べさせる必要なんて無かっただろ。思わず舌打ちが漏れる。
「そうだが」
『ふふ、調べてくれてありがとう。君に頼んで正解だったよ』
……思ってもいないことを平然と口に出す。やはりお前のそういうところが嫌いだよ、奉日本。
『本題はそれかな?それとも、何か困ったことでもあるのかな?』
「あー……その、九条を泊めることになった」
『えっ、それはまたどうして?』
どうやら、コイツにとって予想外のことだったらしい。声が明らかに楽しそうになった。クソ、話したくないが話さない訳にもいかない。
俺は兄から九条を遠ざける為、芝居をうったことを伝える。まあ、九条の為というよりは自分があのクソ野郎に対して不快感を感じたから勢いで行動した……というのが大きいのだが。そこは伝える必要は無いだろう。
「……それで、流れで俺は九条の恋人ということになってしまった訳だが」
『アハハハハ!!そうかそうか!君、恋人宣言なんてしちゃったのかい!?』
愉快そうな大笑いが電話越しから聞こえる。ああ、今すぐにでも通話終了ボタンを押したいがまだ必要なことを伝えられていない。着替えと制服を用意させないといけない。
「……っ、だから九条の着替えと明日の制服が必要だ。すぐに用意しろ。後は部屋に泊める許可を取れ」
暫く "会長" は笑い続けていたが、無理矢理言葉を捩じ込む。
『ふふ……っ、ああ、笑った笑った。了解。必要な物はすぐにそっちに送るよ。寮母さんからの許可も取っておくけど、一応他の男子生徒にはバレないようにね。それと、ついでに聞きたいことがあるんだけど』
「何だ、手短に済ませろ」
『お兄さん、いい感じに煽ってやったかい?君、むかついたからやったんだろう?』
……何もかもお見通しって訳か。相変わらず腹が立つ。
「別に、最低限の礼儀として挨拶してやったまでだ。怯んで逃げ出すほど無礼者でもないからな」
『よくやった、と褒めておこうかな。私もあの人嫌いなんだよね。同じ大学でさ、頭悪そうだなあって思ってたから』
「は、天下の奉日本に褒められるとは光栄なことだな虫唾が走る。……アイツ、外面の良さが売りらしいが世も末だな」
『確かに。あの外面に騙されてる人はそこそこいるかもねえ。まあ周りに居るような子達も同レベルっぽい感じだったけど。そもそも、何で恋人宣言なんてしたのかな?煽るだけなら必要無いだろうに』
やはり、そこを突いてくるか。まだ確定事項では無いが、これも報告しておくことにする。




