3-4
「いえーい!ノッてるー!?」
「結局テメェばっか歌ってんじゃねえか。会長に報告すっぞ」
「大河だってノリノリだったじゃん!」
個室に入ってからは犬飼先輩が歌いっぱなしで、たまに鮫島先輩も歌っていた。何なら鮫島先輩はかなり上手かった。聞き惚れるくらいに。
そしてあたしと常磐先輩は……ひたすらフライドポテトを食べていた。どうやらメニュー名は《メンヘラポテトちゃん》らしい。激しくぶちまけられたケチャップを血に見立てているみたいだ。
ちなみにこのポテトは直樹くんがサービスで持ってきてくれたものだったりする。目の前でぶちまけられたケチャップから常磐先輩に対しての恨みつらみが感じられるので、ただ常磐先輩に怒りをぶつけたくて持ってきてくれたのかもしれない。味は普通に美味しいけど。
「じゃ、そろそろ宵子ちゃんも歌おっか!」
「……はい?」
突然の提案に思わず手に持っていたポテトを落としそうになってしまう。……歌う?あたしが?
「え、あの。あたしが歌うってことですか?」
「カラオケに来てポテトだけ食って帰るなんてつまんないだろ?」
「そもそも、今日は遊びに来た訳じゃねえ。コイツはほぼ遊んでたみたいなもんだけどな」
「えー!そんなことないって!ちゃんと宵子ちゃんの改造計画だって分かってるから!……てことで、ほら!」
確かにさっき、度胸をつける為のものだとか何とか言ってたけど、いきなり過ぎる……!いや、いきなりでもないか。犬飼先輩ずっと歌ってたし……でも、まだ覚悟なんて出来てない。そもそも、人前で歌を披露するってハードル高過ぎじゃない……!?
「……何故そこで俺を見るんだ」
「え、えと、何となく……」
さっきみたいに助けて欲しくて藁にも縋る思いで常磐先輩に目線を送るが、彼は助けてくれる気はさらさらないようだった。
そもそも、さっきのドリンクバーの時だってあたしを助けてくれた訳じゃなくって、単に直樹くんに対して嫌がらせがしたかっただけかもしれない。今、その説の確率が大きく上がった。
「知るか。自分で何とかしろ。契約書にサインしただろうが」
「うっ……!そ、それを言われると、弱いです……」
でも "会長" 曰く、あたしが本当に嫌がるようなことはさせる気は無いらしい。確か、直樹くんがそう言ってた。だから、ここであたしが本気で嫌がれば歌わなくて良くなるかもしれない。
……本当にいいの?それで。
また逃げるの?嫌なことから。
このまま、弱い自分のままでいいの……?
「……宵子ちゃん?」
「……!ご、ごめんなさい……」
もう一人の自分に、心の中で問い掛けられたような気がした。思わずトリップしそうだったが、犬飼先輩に声を掛けられて何とか戻って来る。
ここで逃げるのは簡単だ。だけど、それじゃあいつまで経っても弱いあたしのまま。それは、嫌。多少荒療治だったとしても、これは乗り越えなきゃいけない試練なんだ。
「あ、あたし……歌います……!」
そう言って、犬飼先輩からマイクを受け取る。
「で、でも、曲の入れ方が分かりません……!」
「初めてだもんなあ。俺が入れたげるから、何歌いてえの?」
「えっ、えっと……」
正直、ちゃんと歌える曲は童謡くらいだ。だけど、ここで童謡を歌える程の心臓の強さは持ち合わせていない。
「ち、ちゃんと歌えるか分かりませんけど……!その、"可愛すぎてメンゴ" 歌います!」
今流行ってるし、よく聴く曲だ。これなら歌えるだろう。
あたしは大きく息を吸い込んで、歌い始めた。




