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シン・ヨロズブ  作者: 有氏ゆず
第三話 これってデートなんですか?
20/153

3-3




「それで、デート先をここに選んだって訳?」

「おう、将吾ちゃん!30%割引券使うからよろしく!」

「はーい。……って、ここカラオケだよ!?絶対コミュニケーション能力とか育たないじゃん!?」


その通り。あたしが連れてこられたのはカラオケボックス。しかも直樹くんはここでアルバイトをしているらしい。


「あのさあ、コミュ力よりも俺は度胸の方が大事だと思う訳よ。人前で声出せるような度胸無いとそもそも会話とか出来ないだろ?」

「それは、確かに。零士先輩意外とちゃんと考えてたんだ」

「いや、コイツは絶対カラオケに来たかっただけだと思うぞ。部活での費用ってことにすれば会長が金出してくれるから実質タダで楽しめる訳だからな」

「た、大河……!それ秘密だって」

「りょーかーい。会長に言っとくね。部費を自分の娯楽に使おうとしてるって」

「ちょ、将吾ちゃんまで!宵子ちゃん、何とか言ってくれよ〜!」

「え、あたしですか……!?」


急に話を振られてもどうしたらいいか分からない。第一、カラオケなんて初めて来るし……。


「あ、あの。あたし、カラオケとかよく分からないんです」

「え、アンタまさかカラオケ行ったことないの?その歳で?」


直樹くんが信じられないと言いたげにこちらを見てくる。


「俺も無いが」

「ああ、アンタは別に驚かない。事情も知ってるし」


放置されていた常磐先輩が口を挟む。どうやら彼も人生初カラオケらしい。


「事情って……何かあったんですか?」

「さあな」


さあな、って。自分のことなのに。話す気は無いってことですか。まあ別に知りたくもないけど。




「でも九条ちゃんが度胸が必要ってのは同意かな。ほら、楽しんでおいでよ」


そう言って、直樹くんは空のコップをこちらに渡してくれた。……何で空?普通はお水とか、そういうのが入ってると思うけど。


「宵子ちゃん、早く行こうぜ!」

「待て。今日はお前が楽しみに来たんじゃなく、一応は部活で来てるんだろうが。九条優先にしろ」

「はあい。たーくんったら真面目なんだからぁ」

「テメェがいい加減過ぎるだけだ」

「……で、どしたの?宵子ちゃん」


いつまで経ってもその場を動こうとしないあたしを見かねて、犬飼先輩を声を掛けてくれた。なのであたしも疑問に思ったことを口に出してみることにする。……ひょっとしたら、恥をかくかもしれないけど。


「え、あの。コップ、何で空なんですか?中身は……?」

「ええっ!?まさかドリンクバーも知らないの!?信じらんない!マジでどんな生活してたんだよ!」


またもや直樹くんが信じられないと驚く。


だって、学校以外で外で遊ぶことなんて無かったし、あたしにそんなこと許されなかったし……。

だけど、普通の学生はこんなことは知ってて当たり前のことらしい。やだ。世間知らずって思われたかな。何だかすごく恥ずかしくなってきてしまう。




「……って、うわあああ!!常磐先輩アンタ何してんの!?」


突然、直樹くんが叫ぶ。そして彼の視線を辿るとそこにはドリンクバーとやらでお茶を注ぐ常磐先輩の姿が。

だけど、明らかにコップの量をオーバーしていて床にまでドバドバとお茶が零れて大惨事になっていた。これは直樹くんも叫ぶだろう。


「何か知らんが止まらない」

「長押ししなくていいんだって!ワンプッシュって書いてあるじゃん!」


……あれ。もしかして、庇ってくれたのかな。あたし一人が恥ずかしい思いしないように……?


「前に奉日本に連れて行かれたファミレスでは長押しだったが?何で同じ作りにしないんだ面倒くさい」

「理不尽クレーマーかよ!!というか長押しだったとしてもいつまで押してんだ!零れてんじゃん!と、とりあえず手離せーーーー!!!!」


……違うかもしれない。一瞬でも感謝したあたしの心を返して欲しい。


「な?サネくんって結構優しいだろ?」

「え、じゃああれってやっぱり……」

「いや、鎌実のことだから将吾に嫌がらせしたくてやってる可能性もあるだろ」

「えー、そうかなあ。俺はサネくんは不器用だけど実は優しい説推してるんだけどなあ」

「鎌実は単純に性格悪いだろ。まあ、それでも面白い奴だと思ってるから付き合ってるんだけどな」

「あ、あはは……そうなんですか……」


まあ真実がどうであれ、あたし一人が惨めな思いをしなくて済んだのは事実だから。やっぱり感謝してあげることにしよう。




そして余談だが、あの後直樹くんは職場の先輩にガッツリ怒られたらしい。悪いのは常磐先輩なのに。ちょっと申し訳ないことをしてしまった。




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