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「……もう。こんな可愛い服、あたしに似合う筈ないのに……」
押し込まれるように試着室に入り、渡された服を見て溜息をひとつ。だけどこのまま着替えない訳にはいかない。意を決して顔を上げる。
「……!やだ……」
そうだ。さっき前髪上げちゃったんだっけ。鏡越しに久しぶりにあたしの素顔が見える。美人だって言われたけど、そうは思えない。
「あたしは、不細工だから……」
そのまま自分の顔を見ているのは辛くて、ヘアクリップを外す。その瞬間にぱさりと前髪が下りてきて、いつもの視界に戻った。嗚呼、これで安心する……。
一息ついたところで選んで貰った服を身につける。そういえば、新品の服なんて何年ぶりに着ただろう……。何となく擽ったく感じた。
「まだかな?結構時間かかってるけど」
「は、はいっ。もう大丈夫です……!」
いけない。服にみとれちゃってて待たせ過ぎた。もう一度鏡を見る。……やっぱり似合っているとは思えないけれど、でも……。
「あ、開けます」
あたしは覚悟を決めて、試着室のカーテンを開け放った。
「……っ、お前なあ……」
まず目に入ったのは、物凄く不機嫌そうな顔をしている常磐先輩。
「や、やっぱり似合いませんよね知ってますすみません好みの服を着た女があたしみたいな女で!」
不満をぶつけられる前にとりあえず謝る。これ以上傷つけられることを言われたくないからだ。
だけどそんなあたしの願いも虚しく、この人は遠慮せず言葉をぶつけてくる訳だけど。
「何で前髪下ろしてるんだよ」
「……だって、あたしの顔……」
「下ろしてる方が見苦しいって言っただろうが。良いから上げろ」
「……っ、うう……」
思わず涙が出そうになる。自分だって鬱陶しい前髪してる癖に何であたしだけここまで言われなきゃいけないんだろう。
「……まあ、ずっと貶され続けてきたみたいだし。トラウマって簡単に乗り越えられるものさじゃないだろうしね」
見かねて直樹くんが助け舟を出してくれる。
「なら一生そのままで居るつもりか?」
「それは……」
それは、良くないと思う。だけど今日言われてすぐに「はいそうします」なんて言えない。そう簡単に解決出来るものだったら、こんなに悩んでいないのだから。




