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「……っ!サヨ!サヨ!」
……その声は……先輩?……良かった。ちゃんと常磐先輩のこと守れて。
─────あたしは源氏さんとレナさんの協力のおかげで無事に奉日本の本家へと潜り込むことが出来た。
奉日本の運営する児童養護施設にて技術を叩き込まれ、本家の為だけに育てられた少年……それが変装したあたしの設定だった。
「……そうだ。お前の名は九条皐月にしよう。九条宵子の弟とでも名乗っておけば、常磐鎌実は油断する筈」
本家当主である奉日本幸臣にその名を与えられた時、一瞬正体がバレてしまったのかと思った。だけどそれは杞憂で、寧ろ幸臣はあたしを…… "皐月" のことを可愛がってくれたと思う。
"皐月" が色々やらかした時だって一度も責められなかったし、身分がない孤児にしては破格の待遇だったと思う。
……そのおかげで、「銃声が2回鳴った後に常磐鎌実を撃つからお前は伏せていろ」という情報を引き出すことが出来たのだから。
もしかしたら、この人は家族というものを信じられなくなってしまっているんじゃないだろうか、とも思った。だからこそ、野心も何もない孤児の "皐月" を可愛がることで、それを埋めようとしているのかもしれないと。
そう思うと、とても可哀想な人なのかもしれないと同情しそうになる。
だけど、そういう訳にはいかない。あたしは "皐月" じゃない。 "皐月" なんて本当は存在しない。あたしが本家に侵入したのは常磐先輩を守る為。この人に同情する為じゃない……。
「……この日が決行日だ。分かっているな?皐月」
「……はい、分かってます」
刻一刻と、 "その時" が近づく──────……
「……皐月っ!!」
……ああ、常磐先輩に心配かけちゃうなとは思っていたけれど。まさか "皐月" を心配して奉日本幸臣まで飛び出してくるのは予想外だった。彼から受けた信頼は、本物だったということか。
「やはりお前か!奉日本幸臣ッッ!!!!」
「……!?ぐっ……!!く、くそ……これが呪われた力……やはり放置しておくべきではなかった……」
……な、何……?撃たれて痛む肩を押さえ、何とか起き上がるとあたしは信じられない光景を見た。
奉日本幸臣の左腕が、木っ端微塵に無くなっている。
「ど、どういうこと……なの……?」
「……くそ、この悪魔め……」
幸臣の睨む先に、男が1人俯き佇んでいた。見慣れたうっとおしそうな前髪からポタポタと赤黒い液体が垂れている──────……先輩?
咄嗟に庇ったはずの彼は既に隣からいなくなっていて、あたしが彼を見間違えるはずはなくて、じゃあ幸臣に向かって腕を掲げているあの男は一体、ぐしゃぐしゃと混乱しているうちに幸臣は隠していた予備拳銃を取り出そうとする。
「ちょっと待って、だめ、あれは……っ」
銃口を向けたその腕を引き留めようとしたその瞬間、彼の右手も弾け飛んだ。
嘘、嘘でしょ?今の……じゃあやっぱり常磐先輩が……やったっていうの……!?
「いっ……」
「……いやあああああーーーーっ!!!!」
あたしはもう、情けなく泣き叫ぶことしか出来なかった。
ああもう本当に役立たず……!守るって誓ったのに!!このままじゃ常磐先輩が、人を殺しちゃう……!!
いやだ!嫌っ!そんなの……っ!!
「……だめっ!!」
だからあたしは先輩を止めようとする。無我夢中だった。でも、肩の痛みのせいで上手く動けない。……そんな時だった。




