現世 45
《自分の一番を取り戻すため。》
タケルニーの一番がキッカなら、ヤマトの一番はハルヒなのだろう。
ギュンター王子は暗い夜空を見ながら、考える。
ハルヒとは神子だ。ポンポンと言いたい事を言う、生意気な女。自分を侮蔑の籠った目で睨みつけた。正直、顔はよく覚えていない。ハルヒとヤマトは双子だと言うから、きっとよく似ているのだろう。しかし、伝承の神子と髪の色も目の色も違い、何より、自分の想像していた神子、嫋やかで大人しい儚げな美人では無かったショックが大きかった。元々、世継ぎの王子に生まれ、他人の名前や容姿など覚える必要も感じていなかったギュンターだ。ほんのわずかな時間共にいただけの神子の事など、言われなければ、思い出しもしなかった。
だが、そんな彼女が大和の一番・・・。
それに
ヤマトはあの時のギュンターの言った事を理解していた。それだけじゃない。ちゃんと、ギュンターの国の言葉で、彼を咎めた。
どうして?
いつから?
「どうしたの、ギィ?」
「・・・ヤマト。ハルヒはヤマトの一番?」
「そうだよ。春日は僕の命だ。」
「!?」
いきなり声をかけられ、一番気にかかっていた事が、口をついて出ていた。それに対し、何の躊躇いもない返事に、ギュンター王子は息を飲んだ。「ヤマトの命?」
「そう。彼女がいないと僕は生きていけない。どうしたの、そんなにびっくりして?」
「しかし、ハルヒはヤマトの、」
「うん、姉さん。そんなに変?」
自分は異世界の理解が足りないのかもしれない。家族を一番に思う事は、別におかしなことでは無いのかもしれない。戸惑うギュンターに、大和は、にっこりと笑いかけた。
〈ねぇ、ギィ、もうバレちゃっただろうから言うけど、僕は君の母国語を理解出来るよ。だから、無理して日本語を使わなくても良いからね。それと、明日、ギィが異世界人だって、他の人に伝えても良いかな?多分だけど、明日会う人たちは、ギィの元居た所と交流があると思うんだ。帰る為のヒントが何かあるかもしれない。〉
〈交流がある?〉
〈そう。春日と橘花が召喚された時、こっちの世界から召喚に必要なエネルギーが提供されていたんだ。それに、明日会う団体さんが関与しているんだよね。〉
〈!?そう言えば、神官長が不足分の魔力には当てがあると、〉
はっとしてギュンター王子は口を噤んだ。
にっこりと微笑む大和の笑顔が、それで?と続きを促す。
〈あ、いや、その、神子召喚には膨大な魔力が必要で、今回の召喚には、魔力が足りなくて、だが神官長が心配無用、と、〉
〈ふーん。〉
〈あ、あの、ヤマト、俺、〉
〈ちゃんと意思疎通が出来るってやっぱり素晴らしいね。
これからも、何か思い出したら、教えて欲しいな。よろしくね、ギュンター・シュバルツ・フォン・ジュラ王子殿下。〉
〈!!?〉
「ふふっ。もう、寝なくちゃね。明日は朝から、色々、大変だよ。」
最後に、おやすみ、と言いおいて、大和もキャビンに戻って行った。
一人、デッキに取り残され、故郷とは全く異なる夜空を見上げる。
ギュンター王子は、ヤマトと会話が出来る事を喜ぶべきか、これまで騙していたことを怒るべきか、わからなくなってしまった。小さくため息をついて、彼も自分に割り当てられたキャビンに戻った。
しかし、そんな事を考えていたと知られなくて幸いである。
ギュンター王子の置かれた境遇は、これまでの神子達や橘花や春日の異世界での境遇を、こちらの世界に置き換えただけなのだから。その事実に想像が及ばない彼は、大和や武流にとって憎むべき相手以外には成りえない。それすら、彼には想像の外にあった。




