現世 43
「なぜ、ヤマトがせめられる?」
ギュンター王子が庇うように二人の間に割って入った。
「ヤマトはタケルニーを助けるため、たおれるほど魔力、つかった。ここまでいそいできた。せめる、まちがい。」
「ギィ。」
しかし、武流はその言葉に何も反応しなかった。ただ、ひたすら、何かを待つようにそこに座っている。
「たすけてもらったら、れいをいう、そうならった。
タケルニーはヤマトにれいをいう、べき。」
「武流、お前は
〈俺を無視するな!お前を助けるために、ヤマトがどれだけ大変な思いをしたか、知っているのか?〉
ギュンター王子は武流の胸ぐらを掴んで持ち上げた。ヤマトの茫然自失した様子に胸の奥がモヤモヤする。無視されるのも業腹だ。荒ぶる気持ちのまま、二人には通じないはずの母国語で話していた。
〈年寄りたちに頭を下げて、空飛ぶ船を借りて、お前の異常を知ってから碌に寝てもいない。その前だって、腕に付ける機械に魔法陣を組み込む為に、毎日夜遅くまで〉
〈やめてよ、ギィ!君にそんな事、言う資格はないよ。大体、どうして、こんな事になってるのさ。何故、ここに春日がいないの!彼女をどこへやったのさ!橘花は?二人は無事なの?〉
そう叫んだ大和に、ギュンター王子は愕然とする。
「間違ってるよ、武流兄は。」
大和は自分の声が冷たくなっていくのを抑えられなかった。
大和は、この武流の殺人未遂を出雲衆の裏切りの証拠に、交渉をゴリ押しするつもりだ。裏切り者たちと馴れ合うつもりは無かったし、寝首を搔かれる危険もあると考えている。が、使えるものは何でも使う。天正真美だろうと異世界人だろうと。橘花と春日を取り戻すためなら。
なのに、ここで武流に腑抜けてもらっては、一人では、大和一人では、何もできない。
〈ヤマト?〉
ギュンター王子の戸惑った声を無視して、大和は、記憶に逃げようとした武流を断罪する。
「今更、何言ってんのさ。ここまでやって来て、目の前に答えがあるかもしれない、そんな状況だよ、今。出雲衆の祭神に願いを叶えさせる約束までしたんだよね。何を今更、怖気づいて過去に逃げてるのさ。
失敗?成功?そんなのやって見なきゃわかんないだろ。ダメだったら、また、別の方法を探す。諦めないって言ったじゃないか!どんなことをしても取り返す、って。
橘花と春日を取り戻すのを諦める?
不安だ、わからない、って言って、何が変わるの?
やろうよ、徹底的に!
武流兄が天正真美を利用したように、僕がギィを利用したように。僕も武流兄を利用してるんだ!武流兄も僕を利用したらいい。
それで、橘花と春日を取り戻した後で、ごめんねって言うんだ。
あの時は必死だったから、なりふり構っていられなかったから、自分の一番を取り戻すためだったから、って。」
大和はそこで小さく笑った。
「僕も、春日も、武流兄の一番が橘花って、ちゃんとわかってる。橘花の為なら、何だってやっちゃう事、知ってる。だから、ちゃんと帰って来た橘花を見て、どんなに武流兄が取り乱して、情けなかったか、暴露してからかうよ。それで、橘花がびっくりして、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑って。それを見た武流兄が、崩れ落ちるぐらいデロデロになったところを見て、また、笑って。それで、おしまい。今までと全く同じと言う訳にはいかないけど、でも、ちょっとだけ成長した僕たちは、ちょっとだけ成長した関係を未来にちゃんと築いていくんだ。」




