異世界 5
急に現れたイケメンがパスポートを拾い上げてから、その場の空気がガラリと変わった。
注意がそれている内に、橘花に伝えなければいけない事がある。春日は、腕の中の親友に声をかけようと口を開きかけ、
「ねぇ、春ちゃん、あの人達の話していることわかるんだよね。今、どう言う状況?」
と、逆に尋ねられた。
佐倉橘花は、見た目詐欺な所がある。
小柄で華奢、白磁の肌に射干玉の髪。少し強い風が吹いただけで、倒れてしまいそうな風情だが、その実、かなり気が強い。何せ、初対面であの又従兄・御影武流を平手で殴ったのだ。
『あの時は、本当に肝が冷えたわー。』
普通、小学校2年生が6年生を殴んないよね。
こんな状況にも拘わらず、あの時の武流のびっくりした顔を思い出して、春日は思わず、遠い目になった。
今も、いきなり、知らない所に連れてこられたと言うのに、戸惑ってはいるものの、取り乱したりはしていない。冷静に春日と周りの様子から、判断材料を集めようとしている。
「ごめんね、”伊勢の呪い”に巻き込んじゃったみたい。うちの一族に時々あるのよ、神隠し。」
「神隠し!?」
つい、声が大きくなった橘花に、春日はしーっと手で口を塞いだ。
「神隠しって、いきなり、人が消えちゃう、あれ?」
「そう、それ。」
しばらく、まじまじと春日を見つめ、「神隠しって、夜逃げや駆け落ちの隠語じゃなかったんだ。」
と呟く。
『うん、通常運用。』
意外と冷静な親友にほっとしつつ、春日は手短に現状と今後の対策を伝える。その間も、イケメン達の会話に聞き耳を立てている。
「あいつらが必要なのは、斎宮巫女としての、私だから、橘花が何かされることはないと思う。でも、こんな所、さっさとサヨナラしたいから、力一杯、抵抗する。橘花にも協力してもらうことになるかも。ごめんね。」
「春ちゃんたら、謝ってばっかり。大丈夫。武流さんがきっと何とかしてくれる。」
橘花は、自分に向かって必死に腕を伸ばす武流の顔が、驚き、絶望し、けれど、次の瞬間に決意の色を浮かべるのを見た。
「むこうには大和ちゃんもいるんだもの、二人揃えば、敵なし、でしょ。」
助けが来ることを露程も疑わない。そんな親友が傍にいてくれることが頼もしかった。巻き込まれたと言うのに文句も言わない親友の、ありがたみをしみじみ感じた。
その時、神子召喚を行った責任者として、ギュンター王子が、後から来た騎士とこちらへやってきた。